防衛研究所・防衛政策研究室長の高橋杉雄が8月4日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。NPTの再検討会議に向け、ウィーンで開かれている第1回準備委員会について解説した。
広島・長崎市長がウィーンで核のない世界を呼びかけ
2026年の核拡散防止条約(NPT)の再検討会議に向け、オーストリア・ウィーンで開かれている第1回準備委員会で8月2日、被爆地を代表し、広島市の松井一実市長と長崎市の鈴木史朗市長が演説した。広島市の松井市長は、ウクライナに侵攻したロシアによる核の威嚇や核抑止力を再評価する機運について、「長年、被爆地が訴え続けてきた平和への願いに逆行する」と批判。また、長崎市の鈴木市長は「核兵器のある世界とない世界、どちらを子どもたちに残したいのか。『人間の安全保障』という視点の中心に据えた建設的な議論を」と力強く呼びかけた。
世界における3つの核兵器の考え方 ~核廃絶を目指すべき
飯田)被爆者の家島昌志さんも演説されました。G7広島サミットが行われたことで、核への関心が高まっています。抑止については高橋さんがご専門とする分野でもあります。どのように考えたらいいのでしょうか?
高橋)核兵器について、世界にはいくつかの考え方があります。1つ目は、核兵器を絶対悪として捉え、あくまでも「核廃絶を目指すべきだ」という考えです。
飯田)核廃絶を目指す。
核兵器は必要悪である
高橋)2つ目は、「核兵器は必要悪である」ということ。つまり、核抑止力の効果はあるのだから、核はよくないけれど、それによって全体的に戦争が減るなら、その存在を受け入れていくべきだという考え方です。
核兵器は大国のステータスのためにもあっていいもの
高橋)3つ目に、そもそも核兵器とは悪ではない。核兵器とは大国のステータスのためにも、あっていいものであり、「核を持つことに対して後ろめたい感情はない」という3つの考え方があります。
核兵器を絶対悪とする立場は世界では共有されていない ~その上で、G7首脳が「広島ビジョン」を発出したことは評価すべき
高橋)実際には、核兵器を絶対悪として捉える立場は、あまり世界では共有されていません。それを認識した方がいいと思います。
飯田)世界的には。
高橋)その上で、G7広島サミットでの「広島ビジョン」には、核兵器のない世界を目指すということが書いてあります。「いくつかの前提が満たされ、核のある世界を選ぶか、核のない世界を選ぶかという選択が可能になったときには、核のない世界を選ぶ」とG7首脳が合意したということです。これは核兵器を絶対悪と見なす人たちからすると、「だから何なのだ」というような批判を受けることになります。
飯田)実際には残っているではないかと。
高橋)しかし、「核は絶対悪」という認識は、決して世界のコンセンサスではない。そのなかで「選べるのならば核のない世界を目指す」とG7首脳が言ったことは、正当に評価して欲しいと思います。
映画『バービー』がSNSで炎上 ~原爆のキノコ雲を背景にした画像に公式アカウントが好意的なコメントを投稿
飯田)最近、ネットを中心に話題となっていますが、アメリカでいま『バービー』と『オッペンハイマー』という映画が流行っています。これを組み合わせたようなネットミーム(ネタ画像)として、うしろに原爆のキノコ雲があり、オッペンハイマー氏が白人・ブロンドのバービーを抱えている、というようなものがSNSに投稿されていました。
高橋)そうですね。
飯田)それが受け入れられてしまって、しかも、その画像にアメリカの公式アカウントが「忘れられない夏になりそうですね」と返信してしまった。アメリカのメンタリティのなかには、そのような考え方もあるのだということです。日本人としては受け入れ難いですし、「こんなことを未だに言っているのか?」と思うのですが、世界を相手に考えると、「そういうものも1つあるのだ」と認識しておかなければならない。
アメリカの科学力によって第二次世界大戦を終わらせたという見方のアメリカ
高橋)だからこそ、あの種のネットミームに対して、「これは我々を傷つけるものだ」と声を上げる意味はあると思います。しかし、同時にこちらはこちらで絶対的な価値観でもなく、おそらくアメリカ人からすると、「アメリカの科学力によって第二次世界大戦を終わらせる役割を果たした」という見方があるのです。
飯田)そういう見方もある。
高橋)そのような価値観を肯定的に評価する必要はないのですが、知識としては持った方がいいと思います。
飯田)そう考えれば、「君たちの科学力がこのような結果をもたらしたのだ」として、原爆資料館をG7首脳やアウトリーチの首脳が訪れた意義は大きいですよね。
高橋)大きいと思います。その上で、オバマ大統領もかつて言っていましたが、今回のG7共同声明でも「核のない世界を選べるのなら目指す」ということを言わせたわけですから、意味があると思います。
北朝鮮が非核化し、中国が核軍縮を行えば、核抑止力の必要性は下がる ~本来は脅威となる核を減らすことが必要
飯田)他方、現実的な意味として、日本も含めた安全保障のなかで核はどのように位置付けられているのか。実際、それが日本に対して「メリットの部分ももたらしている」ということも考えなければなりませんね。
高橋)日本において核抑止力がメリットになる理由は、日本を脅かす核兵器があるためで、それがなければ核の傘は必要ないのです。北朝鮮が非核化し、中国が核軍縮を行えば、核抑止力の必要性は下がります。その意味でも、彼らの核を減らすことこそ、本来は必要なのだと思います。
写真入りで報道されるようになった「日米拡大抑止協議」の開催 ~「やれることはやっている」と情報発信する政府
飯田)残念ながら、いまはそうなっていないからこそ、こちらも核抑止力を理解しなければならない。最近ではアメリカと日本の間で行う日米拡大抑止協議も、写真が出て報道されるようになりました。いままでは行われたことが少し記事に載るくらいでしたが、ずいぶんと変わりつつある。それを見せることが必要になってきたのでしょうか?
高橋)特に安全保障環境の悪化に対する国民の不安が深まっているので、政府としても「やれることはやっている」と情報発信を行っているのだと思います。
飯田)いままでは写真を出すと「こんなことをやっているのか」と言われたこともありましたが、むしろそれが安心材料になっている。
高橋)むしろ、やっていない方が批判される時代になってきたのだと思います。
飯田)時代も変わってきたということですか?
高橋)そうですね。
]...以下引用元参照
引用元:https://news.nifty.com//article/domestic/government/12245-2482369/