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【報ステ】日本人学生(20)が挑む“砂にのみ込まれた湖”国策で消えた『アラル海』【報道ステーション】(2025年2月28日)ANNnewsCH

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中央アジアのカザフスタンとウズベキスタンにまたがる『アラル海』。世界屈指の大きさを誇る豊かな湖でしたが、年々縮小を続け、今や10分の1ほどに。その原因は政府の政策、つまりは人災です。そして、地元住民の生活に壊滅的な被害をもたらしています。

■“20世紀最大の環境破壊”

世界で4番目に大きな湖だったアラル海。しかし今は見る影もありません。足元には貝殻。湖が後退していく速度に追いつけず、干からびてしまいました。ここが湖の底だった証は他にも。

かつて湖に浮かべられていた漁船も取り残されたまま。アラル海にはこうした残骸が点在。その一部は今では観光地となっています。

学生(19)
「(初めて見たが)楽しい場所じゃない。非常に寂しい」

旧ソ連時代には、多くの生き物が生息する豊かな場所でした。濃度の薄い塩湖で、サケやチョウザメなど豊富な魚種に恵まれ、採れた魚はソ連全域に出荷されていました。それが今や湖の面積はかつての10分の1に縮小、地元の人の生活を一変させました。

ドライバーのアキムジャンさん(52)は地元で生まれ育ちました。

アラル市在住のドライバー アキムジャンさん
「子どものころ、アラル海はアラルの街の中にあった。泳ぎに行ったり、魚釣りをしたり、舟から飛び込んだりもしていた。疲れて家に帰ってきたものだ」

車で2時間ほど走ると、高さ60メートルほどある山が視界に入りました。干上がる前のアラル海は、この山の頂上あたりまで水があったといいます。人々に恵みを与えていた広大な“海”はいったいなぜ失われてしまったのか。その原因は人の手によるものでした。

アラル海の水源は2つの大きな川。その川から周辺の砂漠地帯へ水路を引いたことで、湖へ注ぎ込む水の量が激減。アラル海は瞬く間に干上がってしまいました。主導したのはソ連のスターリン。砂漠地帯を大規模な農地に変え、生活を豊かにしようとしました。しかし皮肉にも、その国策が今では20世紀最大の環境破壊と呼ばれています。

■『国策』で漁業衰退…廃虚の町

アラル海周辺の漁村で漁業会社の社長をしていたミナジャッタさん(72)。水がなくなり始めた頃のことを伺いました。

カラテレン村の長老 ビマノ・ミナジャッダさん
「どこの村に行っても漁や魚の加工を行う会社があったし、200~300軒の家があった。漁業関係の大きな会社や、漁のための道具もあった」

村の未来を考えた時に、気になるのはやはり孫たちのことです。

カラテレン村の長老 ビマノ・ミナジャッダさん
「私たちはここに骨をうずめる思いだが、子や孫たちを考えると心配だ。アラル海へ流れ込む水が途絶えるかもしれない。そうなると、ここでの生活はできなくなるのが現実だ」

■砂漠化進み…町をのみ込む

住民が受ける被害はそれだけではありません。町そのものが消滅の危機にさらされています。水量が減ったことでアラル海は塩分濃度が上がりました。干上がった場所には塩が残り、植物が育ちにくい土地となってしまいました。

アラル海の北側にあるアケスペ村。この村も以前は漁業が生業の中心でした。今や人の姿はなく、住居だった建物は砂に埋まり、放置されています。風で巻き上がった砂が村を襲っています。

ティムルバイさん(41)の一家は、現在この村に住む唯一の家族です。

ティムルバイさん
「他の人は家が砂に埋もれたから引っ越していった。私はまだ引っ越しできていない。引っ越しのための費用がまだ用意できないからだ」

ティムルバイさんは、祖父の代から続くラクダの遊牧で細々と生計を立てています。人間の手によって地図から消えつつある豊かな湖。そして、その影響を受けるのも人間です。

ティムルバイさん
「アラル海の水があったころ、生活が豊かだった。今は水も仕事もない。国から支援はない。ほったらかしだ。住民にとってはアラル海に水が戻り、生活が戻ってくれるのを望む」

■砂漠を緑に…日本人学生の挑戦

水は干上がり、砂漠化の一途。こうした現状に、日本から1人飛び込んできた学生がいます。

柚原結女さん(20)。ウズベキスタンの大学に留学し、環境改善の研究をしています。

カラカルパクスタン農業大学 柚原結女さん
(Q.これから何をする)
「この拠点から植林地に実際に行って植林を始めていきます」

柚原さんは研究の傍ら、現地政府主導で行われるアラル海の植林プロジェクトに参加しています。使うのはサクサウールという灌木。中央アジアに自生する木で高さ2~3メートルになります。

カラカルパクスタン農業大学 柚原結女さん
「サクサウールは砂漠気候に適して、水分がない環境でも生きられる。塩に強い植物で、こうした塩害地でも育つことができる」

サクサウールを植えることで砂の移動を止めつつ、失われた湖を森に変えていこうとしています。

カラカルパクスタン農業大学 柚原結女さん
(Q.何のために黒い液体を)
「土壌の中の水分の保持する役割があるので、これを入れることによって土の中の水分を保てる」

アラル海が干上がったことで残った塩は地面に悪影響を及ぼしました。特に塩分が強く残ってしまった地域では、ただ植えるだけでは植物が育たず、柚原さんたち日本のチームの技術支援が必要です。植林プロジェクトには、柚原さんや政府関係者だけでなく、学生など地元の人も参加しています。

カラカルパクスタン農業大学 柚原結女さん
「専門家だけが見て考えてやるではなくて、それぞれの方が自分なりに考えたりとか、少しの人しか考えていない状況の中から大きくなっていくのかな。そうなっていくほど、これからのアラル海についても新しい方向性が見えてきたり、取り組みの輪が広がるのかなって思います」

■「緑化よりも収入を」葛藤も…

植林に使うサクサウールは、地元の人たちが種を採取し、その種から苗木を育てているため、彼らの協力は必要不可欠です。しかし今、その協力体制にある問題が生じています。

カラカルパクスタン農業大学 柚原結女さん
「今、アルテミア漁に住民が行ってしまうことで、苗木の生産であったり植林にも影響が出ている」

アルテミアとは塩水の湖に住む極小の甲殻類。塩分濃度の高い水でも生存できるため、今のアラル海にも多く生息しています。卵は魚のえさとして世界的に需要が高く、多くの地元の男性たちは、アルテミアを取ろうと半年もの間、出稼ぎに行ってしまいます。

漁師(36)
「1袋100万スム(約1万2000円)。平均1カ月分(約60万円)を7人で分ける」

漁師(42)
「街で仕事してもここまで稼げないし、そんな仕事もない」

アルテミアの卵1袋で、町の仕事の約2カ月分の収入になるといいます。緑を増やすために協力してくれる人がいる一方で、目の前の収入を優先したい人たちもいる。こうした“現実”に柚原さんの心は揺れ動きます。

カラカルパクスタン農業大学 柚原結女さん
「こちらの方が何のためにどういう状況で働いているかを実際に聞くことができて、現状を改めて感じました」

■「日本人学生の挑戦」住民たちも

それでも遠く離れた日本から言葉の通じない場所へやってきて日々奮闘している柚原さん。その姿にアラルに住む人たちも勇気付けられています。

植林活動に参加 エルブルースさん(40)
「日本からアラル海の問題を解決しようと植林の活動をする人が来るとは夢にも思わなかった。来てくれてうれしく思う」

緑化プロジェクトに関わってきたなかで、柚原さんが未来について思うことは

カラカルパクスタン農業大学 柚原結女さん
「自然を守るとか、生活を良くするとか、貧困をなくすみたいな、そういう部分で将来的にも動ける人になりたい。正直、アラル海(の問題)も日本にいる時には感じていなかったんですけど、この(留学)1年じゃもったいないなって思うぐらい、もっと何年もかけて関わりたいなっていうふうに今は変わっています」

柚原さんたちのチームは、ただサクサウールを植えるだけでなく、サクサウールに寄生する『ニクジュヨウ』という植物も育てています。ニクジュヨウは漢方薬の原料などにもなることから、新たな産業に育てることで、現地の人たちにとっても持続可能なプロジェクトにしたいと語っていました。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp

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