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現代はSNSでの言葉遣い一つで炎上し、発言を撤回してもなお世間からの批判を浴び続けることが、日常茶飯事となっている。
そんな風潮を30年以上も前から危惧し、己の身を呈して抗議したのが人気作家の筒井康隆だった。
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『時をかける少女』『わたしのグランパ』などの映像化作品をはじめ、多数のベストセラーを発表してきた筒井は、1993年9月、月刊誌『噂の眞相』に連載していた日記の中で突如「断筆」を宣言。
「あたしゃ、キれました。プッツンします」から始まるエッセイは、「これは現在の『ことば狩り』『描写狩り』『表現狩り』が『小説狩り』に移行しつつある傾向を感じ取った一作家のささやかな抗議である」と締められた。
事の発端は筒井のSF短編小説『無人警察』が、高校の国語教科書に採用されたことだった。
この小説において主人公が、速度検査器、アルコール摂取量探知器、脳波測定器などを内蔵した巡査ロボットから、交通違反の取り締まりを受けた際に、「てんかん持ちの人が異常な脳波を出していた場合もチェックされるらしいが、おれはてんかん持ちでないしなあ」と独白するくだりが「差別を助長し、誤解を広める」として、日本てんかん協会から抗議を受けたのだ。
確かに、てんかん患者の運転免許取得は、医師による診断や適切な治療を条件に認められている(大型免許や二種免許については制限もある)。とはいえ、てんかんの発作の際に通常と異なる脳波が出ることは科学的な事実であり、筒井の記述が誤っているわけではない。
本作のテーマも「人工知能が警察活動を行う」という、AIによる機械警備が進む現代社会の姿を先取りしたものであり、てんかん患者を差別する意図で書かれたものでは決してない。
報道で「差別主義者」と決めつけられ…
とはいえ、相手が差別と感じれば差別というのは最近でもよくいわれることであり、筒井自身も協会が抗議の声を上げること自体は、当然の権利として捉えていた。
その上で両者が話し合って合意形成をしていけばいいというのが筒井の考えで、実際に協会側とは直接交渉を持ち、のちに和解もしている。
だが、それでも断筆に至ったのは、抗議を受けたこと以外の理由があった。
一つは作者である筒井を守るべき立場の出版社が、抗議を無抵抗で受け入れるかのように映ったこと。そして、同じく表現の問題に関わる新聞社などのマスコミが、協会側の主張を一方的に取り上げたことへの不満もあった。
小説を読まない人たちは、報道だけを見て筒井を「差別主義者」と決めつけ、筒井の家族や親戚にまで抗議や嫌がらせの声が寄せられた。こうした二次被害を防ぐために断筆したところもあったという。
さらにもう一つ、筒井が気に入らなかったのは、同業である作家たちの中に、表現の自由の問題について議論するよりも筒井批判を優先した者が少なからずいたことだった。
筒井は1968年から直木賞に3度も候補として挙げられたが、いずれも受賞には至らず、これは当時の文壇においてSFというジャンルへの評価が低かったことが理由としてあった。
この頃、ある編集者が筒井関連の企画を会議に上げたところ、編集長から「あんなものは文学じゃない」と、けちょんけちょんに貶されたという逸話もある。
閉鎖的な文壇に強烈な皮肉
筒井がそんな風潮に反発するかのごとく、冗談半分ながら「小学生時代の知能テストでIQ187だった」などとうそぶいてみせると、筒井ほどのヒット作に恵まれない作家や出版関係者たちは、「SFなど低俗なものを書いているくせに」と嫉妬まじりの反発を見せたものだった。
また、筒井は直木賞を受賞できなかったこと自体をパロディ化した小説『大いなる助走』を発表。賞の選考委員たちを明らかにモデルが分かるように描写し、彼らを作中で殺して回るという、強烈な皮肉を放ってみせた。
そうした経緯から、既成の作家たちによる筒井擁護の声が少なかったのもやむを得ないところではあったが、それでも作品が検閲されるような事態には抵抗すべきというのが筒井の本心だったろう。
結局、断筆は3年3カ月に及んだが、出版社との間で「筒井の意に反した用語の改変は行わない」「作品の用語に関して抗議があった場合、出版社と筒井が協議して対処する」「抗議に関して対話や文書の往来が必要となった場合は、出版社が責任をもって仲介し、その内容を公表する」などの覚書を交わして断筆を解除した。
その後、筒井が書いたものに対して出版社側から修正を求められることは、ほぼなくなったという。
「何を書いても筒井康隆ならば許すという作家になりたい」との旨を今もなお意気軒高に語る筒井は、コンプライアンスだなんだと口うるさい昨今の言論状況を、いったいどのように見ているのだろうか。
文/脇本深八
]...以下引用元参照
引用元:https://news.nifty.com//article/domestic/society/12311-3343686/