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起業と聞くと「特別なスキルや才能、資産がなければ成功しない」と考える人は少なくありません。しかし、日本では1日におよそ400社近くの法人が設立されています(東京商工リサーチ:2022年「全国新設法人動向」調査より)。過去にSNSで大炎上しながらも、不死鳥のごとく蘇った元公立小学校教師の起業事例をみていきましょう。経営コンサルタントの鈴木健二郎氏が解説します。
子どもたちの未来を作る…教育への「熱意」が起業のタネに
田中誠二さん(仮名)は、35歳で教師を辞めるその日まで、公立小学校教師としての職責をまっとうした。そんな彼がこの若さで教壇を去ったのには理由がある。
教師時代の月収は30万円ほどで、1年を通じても500万円に満たない。だが、彼のキャリアの目的は金銭的な報酬にあるのではなく、子どもたちの未来を形作ることにあった。特に関心があったのは、学校に馴染めずに不登校になってしまう子どもたちへの特別な教育プログラムだ。
担当した特別支援学級での成功体験が、誠二さんの人生の新たな扉を開いた。通常のカリキュラムでは見放されがちな彼らだったが、誠二さん独自の教育法によってしだいに心を開き、顕著な成長を遂げたのである。
彼が重視したのは、「ロールプレイ」や「グループ活動」といわれるものだ。
ロールプレイとは、子どもたちが異なる役割を演じることにより、他人の視点を理解し、共感力を育むことができる学習方法のこと。
誠二さんは、「友達とのけんかの解決方法」「運動会の騎馬戦での協力方法」といった、日常でありそうな特定の状況や問題解決が必要なシナリオをいくつか用意し、子どもたちにそれぞれの役割を割り当てた。こうしたシナリオを通じて、子どもたちは交渉術や自分の意見の表現方法、人の話を聞くスキルなどを楽しみながら実践的に学ぶことができた。
さらに誠二さんは、ロールプレイに「グループ活動」を取り入れた。クラスを数人ずつのグループに分け、アートプロジェクトや科学実験、スポーツゲームなどを行うことで、子どもたちが自然に互いの強みを活かし、グループ内での役割分担を理解し、共同で問題解決を図る経験を得られるように工夫した。
子どもたちがこうした活動を通じて社会性を身につけ、自己表現を学び、少しずつ対人関係が改善されていく様子に、保護者たちも深い感動を覚えたようだ。誠二さんのもとには、熱い感謝の言葉が届いた。
誠二さん自身も、子どもたちがお互いに協力し合い、お互いを尊重する姿は、「教育の本質を象徴している」と感銘を受け、自身のやり方に確信を持ったという。
“ルール”から外れる誠二さんに向けられた厳しい目
しかし残念ながら、情熱だけでは思うようにことは進まない。
学習指導要領に捉われずに独自のメソッドを展開する誠二さんを、必ずしも良しとしない上司や同僚がいた。また、こうした活動には一定のコストがかかるが、学校が許容できる予算の制約も、彼の活動を妨げる要因になっていた。
教師としての活動に限界を感じた誠二さんは、自らの手でより多くの子どもたちに自分の教育方法を広める決意を固めた。「教育コンテンツ」という独自の資産を武器にビジネスとして展開しようと、起業する道を選んだのだ。
誠二さんのプログラムに共感する保護者の支持もあり、私設のオリジナル授業はまずまずの滑り出しであった。そこで、より多くの理解を得ることとコンテンツの磨き上げを目的に、誠二さんは熱意溢れるその教育方法とその成果についてまとめ、SNSで共有し始めた。
SNSで猛批判…起業後も窮地に追い込まれた誠二さん
ところが……。発信したコンテンツの一部が誤解を招き、「教育界の伝統的な手法を否定している」との猛烈な批判を浴びることになったのだ。
インタラクティブな学習方法を推奨する誠二さんの発言の一部を捉えて、「教室での本来の学びを否定している」との声に混ざって、「子どもたちの自主性を重視するとしているが、子どもに過剰なストレスを与えている」との批判もあった。批判者のなかには、なんとかつての上司もいたという。
この炎上は、彼がこれまで築いてきた信頼関係に大きな打撃を与え、支持者だったはずの保護者までもが、誠二さんからしだいに距離を置き始めた。
批判が波紋を広げるにつれ、誠二さんの教育プログラムに対する情熱は、挫折感に塗り替えられた。彼は深く落ち込み、気がつくとすべての行動力の源となっていた自身の教育理念さえも疑い始めるようになっていた。
絶望の誠二さんを救った「教え子からの手紙」
そんなある夜、誠二さんは自宅でふと、かつての教え子からの手紙を見つけた。その手紙には、彼の教育がどれだけ自分にとって意味があったか、そして社会的スキルを身につけられたおかげで友達ができ、いかに学校生活が楽しくなったかが素直な言葉で記されていた。
この手紙を読んだ誠二さんは、自分の使命と初心に立ち返った。彼は理解されないことに直面しても、自分の信じる道を歩むべきだと決意を新たにしたのである。
翌日、誠二さんは具体的な行動計画を立て始めた。
彼は、自身の教育法の意図をもっと明確にし、誤解を生む余地を減らすために、具体的な教育成果と理論的背景を組み合わせた情報発信戦略を練った。さらに、彼は批判に直接対話で応じることで、コミュニティとの関係を修復しようと考えたのだ。
そこからの誠二さんの行動は早かった。まずはオープンフォーラムを設け、保護者や教育関係者と直接対話する機会を設けることに。彼は自らの教育法の真意を丁寧に説明し、保護者や教育関係者の意見に耳を傾けた。
このプロセスを通じて、彼はプログラムを改善し、より多くの人々に受け入れられる形に再構築することができたという。
また、SNSでの情報発信においても、よりわかりやすく誤解のない形で発信するよう工夫を凝らした。
こうした誠二さんの努力は実を結び、彼のビジネスは再び成長路線に戻ってきた。翌年には年商が5,000万円に達し、彼自身の収入も教師時代の5倍の2,500万円に。彼のプログラムは再評価され、特に個別の対応を必要とする子どもたちの保護者から高い支持を得ている。
逆転の背景にあった「情熱」と「内省力」
不登校の子どもたちのニーズに応えるための独特な教育方法と、教育に対する深い情熱。これらは財産リストに載らない「無形資産」であるが、彼の教育キャリアの基盤となり、起業へと導く原動力になった。
SNSでの誤解と批判は彼のキャリアにおける大きな試練となったが、ピンチを乗り越えるだけでなく、誠二さん自身の無形資産をさらに洗練させ、強化する機会として捉え直したところに、逆転の秘訣がある。
彼は批判に直面するなかで、オープンフォーラムを開催し、保護者や教育関係者と直接対話することで、自らの教育法と意図を明確に伝えた。この過程でコミュニケーションの技術を磨き、プログラムの内容をさらに改善し、参加者からの信頼を得るための新たな方法を開発した。
この物語は、無形資産がスタートアップにおいてどれほど強力なものであるか、そしてそれを適切に管理し、時には困難な状況を利用してそれを強化することが、成功へのカギであることを我々に教えてくれるだろう。
鈴木 健二郎
株式会社テックコンシリエ
代表取締役
]...以下引用元参照
引用元:https://news.nifty.com//article/economy/economyall/12352-3138214/