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イスラエルとハマスの戦争は、パレスチナ人だけでなく、一方的に攻勢をかけるイスラエル側にも、癒えない傷と苦悩をもたらしています。大越健介キャスターが現地を取材しました。
■「どんな方法でも」人質解放を
イスラエルの中心都市テルアビブ。20世紀初頭に建設された街ですが、ここまで発展したのは戦後、ユダヤ人の移住が本格化してからです。そんな街もある場所に行くと…。
大越キャスター:「テルアビブの中心部にある公園です。いつしかここは“人質広場”と呼ばれるようになりました。10月7日のハマスの攻撃によって、約240人の人質がとられ、現在は約130人が、まだ人質として残されたままです。ここだけは、ある種、独特の静けさと、どこか悲しみをたたえた広場になっています」
シャイリーさん(22)は、兄が人質として連れ去られたままです。
シャイリーさん:「無事なのかどうか。情報がないので、何も分かりません」
望むのは兄の帰還だけ。それ以外のことを考える余裕はありません。
シャイリーさん:「(Q.ガザでは2万人が犠牲になりました)2万人の犠牲者については分かりません。人質に関わるニュースだけ見ているので。(Q.願うのは人質のことだけ)どんな方法でもいい。連れ戻してほしい」
■「悪との戦いに犠牲はつきもの」
国際社会から大きな批判を浴びている、ガザ地区への侵攻。しかし、イスラエル国内では8割の人が「ガザの人の苦しみを考慮する必要はない」としています。
イスラエル ネタニヤフ首相:「ガザにいるあなた方を、家族が支援していることを知っています。素晴らしいことです。力であり勝利への鍵です」
軍が駐留している集落では26日、ボランティアが、ガザの前線で任務についている兵士たちに、休息の場所を提供していました。炊き出しは週6日。この日は50人のボランティアが集まっていました。
ボランティア:「(Q.兵士たちの様子はどうですか)兵士と直接話すことは、ほとんどありません。食事を提供し、安全に送り出し、帰ってきてもらうだけです。日によりますが、犠牲が多ければ、その日は悲しいです。でも彼らは果たすべき任務があります」
ボランティア:「(Q.10月7日以降、ガザでは2万人が亡くなり、こうして爆撃も続いていますが、複雑な気持ちになりませんか)なりません。“悪”との戦いにきれいごとはなく、犠牲はつきものです。(Q.あなたの言う“悪”とは)ハマスです」
■犠牲者60人 ガザ隣接のキブツへ
ただ、襲撃されたキブツで暮らす人たちには、パレスチナ人との共存を理想としてきた人も少なくありません。取材陣はガザ地区からはわずか2キロにある、キブツのクファール・アザに向かいました。
大越キャスター:「完全に破壊されていますね。ハマスによる攻撃の痕でしょうか。人影が見当たりませんね」
住民のアビハイ・ブロダッチさんさん(42)。農学者であり、ガザの人たちとの共存を目指してきた1人です。
アビハイさん:「襲撃は土曜朝で祭日だったので、みんな就寝中でした。(Q.ハマスはどんな攻撃で、これほどの破壊を)ハマスは大量のRPGを使用しました。洗濯機も弾痕だらけです」
10月7日、人口400人のこの町を、ハマスの戦闘員70人が襲撃しました。幼児を含む、犠牲者は約60人とされています。
大越キャスター:「建物の前に写真が置かれています。亡くなった住民の名前が掲げられているんですね」
ハマスは、アビハイさんの家も襲撃しました。
アビハイさん:「あのスプレーで書かれた数字は、イスラエル軍が中を調べた日付で、安全であることを示しています。兵士たちは中で発砲し、反撃がなかったので無人だと判断しました」
■取材中に警報 シェルターへ退避
アビハイさん:「(Q.停戦が合意されたら、ここに戻って生活を再開できる見込みは)質問に答える前に、お見せしたいものがあります。(慌てて)中に入ってください。みなさん入ってください!中に入って」
大越キャスター:「今、爆発音がしたので、シェルターにみんな逃げ込みました。激しいですね」
アビハイさん:「シェルターはこんな感じです。サイレンが鳴ったら、15秒以内に避難します。今回もそれができたので、みなさん上出来です。ここは娘の部屋です。10月8日が娘の誕生日でした。ガザで10歳になりました」
当時、アビハイさんは、ハマスとの応戦に出撃していて、家にいた妻と3人の子どもが人質として連れ去られてしまいました。解放されたのは51日後のことです。
■「友人はみな死んでしまった…」
リビングを案内してもらうと、壁やテレビなど至る所に銃痕がありました。ハマスの物、そしてイスラエル軍の物です。
アビハイさん:「私がここに戻ってくるのか聞いていましたね?これをお見せしたかったのです。友人のみんなが囲むテーブルです。週に2回くらい、金曜日とかに集まって…ビールが残されたままです。これは友人が使っていた灰皿です。ずっとそのままだった証です。彼が死に、別の友人も死に、もう1人、さらにもう1人。みんなここに座っていました。ここに戻ってくるかと聞かれても、友人はみんな死にました」
大越キャスター:「ここに帰って住むつもりはありませんかと聞いたんですけど、『そうできたらいいけど、現実的じゃないね』ということでした。家族が心の傷を抱えて、ここにまた戻ることができるだろうかと。そんな質問をしてしまった自分が愚問だったなと思います」
■“ガザとの共存”「希望は捨てない」
全てがやるせない。そんな時間だけが過ぎていきます。
アビハイさん:「どうぞ持って行って。ここのオレンジは本当に甘いんです。(爆発音)イスラエル軍の砲撃です」
大越キャスター:「戦争があっても、果物はちゃんとできる。人間だけが変わるんだな。おいしい」
アビハイさん:「向こうはガザ地区で、煙のため、はっきり見えませんが、建物の影が見えるでしょう。(Q.ここに住んでいた頃は、ガザの街並みが見えて、ガザの人々と顔を合わせていたんですね)ええ。多くは農作業などの仕事のために来ていました」
アビハイさん:「(Q.ガザの人々との平和な暮らしが理想だとか)ガザの人々も平和を望んでいるはずです。私も同じで、平和を望まなければ、ガザが近いこの場所で暮らすわけがないし、今も平和を信じています。平和の実現まで、何年かかっても希望は捨てません。今は銃を手に戦っていますが、いつの日か、それがペンと紙になることを願っています。相当な時間がかかるでしょう。それまで生きていればいいのですが」
■大越健介が見た「ハマス襲撃の村」
(Q.アビハイさんは、人質にとられた家族は戻ってきたが、多くの友人・隣人を失ってしまいました。胸中は複雑ですね)
大越キャスター:「アビハイさんとのインタビューの中で、こんなやり取りがありました。『家族がハマスに連れ去れたと知った時、さぞつらかったでしょうね』と聞くと、アビハイさんは『いえ、その時が、人生で一番幸せな時でした』と答えました。私は一瞬、聞き間違いをしたのかと思いましたが、すぐにその意味が分かりました。人質にとられたとはいえ、少なくとも家族が死んでいなかったことが、うれしかったということです。まさに究極の状況だったことが分かります。一方で、アビハイさんは、共同体で暮らしてきた隣人たちが次々と殺されていくのを、自分も応戦しながら見ていた本人です。それだけに『こんな状態で“幸せだ”なんて言えませんよね』と、悲しげな表情で話をしていました。
(Q.アビハイさんと、その家族の現状はどうなっていますか)
大越キャスター:「アビハイさんは、国から提供された別の住居に移り、以前から続けてきた看護の勉強に、本格的に取り組んでいるということです。『人々を癒す仕事をしたい』と話していました。アビハイさんの妻と3人の子どもたちは何とか解放され、一緒に暮らしています。しかし、心の傷が残っていて、子どもたちはなかなか眠ることができず、家族みんなで夜通し泣き通すことも珍しくないそうです。アビハイさんが、看護師の資格を取り、癒したいと願う人の中には、他ならぬ自分の家族も含まれています」
(Q.25日はパレスチナ側から、26日はイスラエル側から伝えてもらいました。双方を取材するなかで、今回の戦争をどう感じましたか)
大越キャスター:「今も砲弾の音が鳴りました。ここはまさに戦争が行われている国だと実感します。イスラエルとパレスチナの双方に譲れない一線があり、それぞれの指導者が正義を掲げて戦争をしている以上、多くの市民はそれを受け入れざるを得ないというのが現実です。しかし、取材をした、イスラエル兵たちに安らぎの場所を提供しているボランティアの言葉には、どこか救われる思いがしました。彼女は『ガザで2万人以上が亡くなっていることはもちろん知っているし、心が痛まないはずがありません。そのうえで、イスラエル人である私たちにできるのは、ただ、戦いに疲れたイスラエルの兵士たちに安心できる場所を提供し、私たちなりのやり方で貢献することなんです』と話していました。戦争当事者のどちらが善で、どちらが悪かという、果てのない思考に陥るよりも、平和的なやり方で、小さなことでも自分にできることを行動に移していく。そうした市民の善意の積み重ねが、ひょっとしたら指導者を動かすかもしれません。それによって、戦争の犠牲者をなくしていくことにつながるかもしれません。一連の取材を通じて、今、私が感じているのは、そのことです」
(Q.取材のなかで『犠牲はしょうがない』『ハマスは“悪”だ』と話す人もいました。色んな人のなかに、単純ではないグラデーションがありますね)
大越キャスター:「我々ニュースのなかでは、国の指導者たちにインタビューをすることが多いと思います。指導者たちにとっては、建前が大事です。自分たちの正義を主張します。しかし、実際に市民の間に入って話を聞くと、色んなグラデーションがあります。『絶対に戦争はしたくない』という思いを持つ人もいれば、『絶対に敵を負かさなければならない』と勇敢な思いにかられる人もいます。どの道を選択するかは、指導者自身が人間として問うてみる必要があると思います。遠く日本で見聞きしているのとは違って、ここに来ると、戦争という現実の重さと、しかしそれでも、戦争を回避することは人間にしかできないということも合わせて痛感しています」
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp
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