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■『勝利計画』支援国の反応は
ウクライナでは今も戦闘は続いています。東部では劣勢を強いられているのが現状で、ロシア軍はここ最近、東部の街を次々と制圧。先月末には、まだウクライナ国旗が掲げられていたドネツク州の要衝トレツクにも進軍し、すでに街の半分を制圧したとしています。
一方のウクライナ軍。現在はロシアのクルスクに越境攻撃を仕掛けていますが、思わぬ勢力と対峙することになりました。韓国国家情報院は、北朝鮮が特殊部隊1500人をロシアに派遣したと発表。韓国メディアは情報筋の話として、合わせて1万2000人の派兵が予想されていると伝えています。ウクライナはクルスクに派遣されるとみています。
こうしたなか、ゼレンスキー大統領が向かったのはブリュッセル。目的はヨーロッパの支援国にウクライナの勝利計画をプレゼンすることです。
ウクライナ ゼレンスキー大統領
「今すぐこの勝利計画に着手すれば、来年にもこの戦争を終結できるでしょう。これは“力による平和”のアプローチで、それに見合うミサイルが必要です」
主に5つの項目からなる勝利計画。武器支援と共に特に重要だと訴えたのは「NATO加盟交渉への正式な招待」です。
ウクライナ ゼレンスキー大統領
「私たちはNATO以外の有効な同盟を知りません。選ぶのは核兵器ではなくNATO。私たちはNATOを選びます」
ウクライナを支援する国々は勝利計画をどう捉えたのでしょうか。
ラトビア スプルーズ国防相
「我々は勝利計画を支持します。ウクライナは勝たねばなりません」
リトアニア カシュウナス国防相
「『NATO拡大を拒む権利はない』とロシアに伝えられます」
NATO ルッテ事務総長
「ウクライナの加盟は時期や招待のタイミングが問題ですが、話し合っていません」
■“戦地”での3年を終えて
前駐ウクライナ大使の松田邦紀さんに聞きます。松田さんは、ロシアのウクライナ侵攻前の2021年10月にウクライナ大使に就任。約3年の赴任を終え、帰国したばかりです。
(Q.激動の3年間だったと思いますが、特に印象に残っていることは何ですか)
前駐ウクライナ大使 松田邦紀さん
「この3年間で一番印象に残っておりますのは、岸田総理(当時)のウクライナを電撃訪問。そして、ゼレンスキー大統領の広島訪問およびG7参加。侵略されている国に日本の総理が初めて行く。そして、侵略されている国の指導者が遠く日本まで来る。岸田総理はこの戦争の本質である国際法違反、残虐のシンボルとなったブチャをご訪問され、ゼレンスキー大統領は広島を訪問して、戦争で破壊された町が復興していることを見て、この戦争の後の復興に対して必ずや復興できるという自信をお持ちになった。そういう意味では、この2つの訪問が戦争において一番思い出深いですし、また重要な意味を持っていると思います」
(Q.ロシアが侵攻を始めてから2年半を超えました。ウクライナの国民の皆さんも“戦争疲れ”を感じる局面もあると思いますが)
前駐ウクライナ大使 松田邦紀さん
「戦争疲れがないと言ったら嘘になります。ただ、ウクライナは日本の1.6倍の大きさの国ですし、地域によって戦争の被害、日々戦争を感じる度合いも違います。西ウクライナでは戦時中であっても復旧復興への動きが始まっておりますし、前線に近い東ウクライナでは悲惨な毎日が続いています。ただそういうなかで、例えば侵略している側のロシアとの比較において、防衛するウクライナにおいては徴兵を忌避する人の数が圧倒的に少ない。逃げ出す人がほとんどいない。また、女性がどんどん自ら志願して戦闘職種に就くと。私は様々な局面で、ウクライナの人たちが疲れを感じながらも、最後の勝利を信じて日々、戦場において広報において頑張っておられるというのは3年間まざまざと見せていただきました」
■「勝利計画」“停戦”の選択肢は
ゼレンスキー大統領は16日のウクライナ議会で、今回の戦争の勝利計画を公表しました。計画ではこのような項目が挙げられています。
・NATO加盟への即時の招待
・ロシアの軍事施設攻撃のための欧米製長距離ミサイルの使用許可
・ロシアに対する非核抑止力の強化
・ウクライナの経済成長
・戦争終結後の安全保障協力
(Q.NATOの即時加盟など、ハードルの高いものも多いと思います。ゼレンスキー大統領が今このタイミングで勝利計画を打ち出した狙いはどこにあると思いますか)
前駐ウクライナ大使 松田邦紀さん
「それについて説明するためには、ゼレンスキー大統領がもう1つ打ち出された平和フォーミュラが重要です。2022年11月に発表されて、2023年のちょうどわが国はG7の議長国時代に、この平和フォーミュラを動かすために安全保障担当補佐官会議や、キーウにおいては大使級会議等々を数多くこなすことで、今年6月にスイスにおいて第1回のサミットが開催されました。そのサミットにおいて、この先、平和フォーミュラを実現して最終的な平和に至るためには、ロシアを第2回の会議には呼ばなければいけないというコンセンサスが生まれたのはご記憶にあろうかと思います。ロシアを呼ぶためには具体的な計画、そしてその計画のかなりの部分は、一方でウクライナの戦場において優位な立場を獲得すると同時に、ロシアにこの戦争を続けても意味がないということを示す。そして戦後に向けてつながるような防衛・抑止力・経済といったことを含んだ具体的な計画を、当事者であるウクライナの方が出さなければ、平和フォーミュラに基づく和平につながる道筋ができない。逆に言えば6月の後、もっと言えば11月のアメリカ大統領選挙までの間に、ウクライナが平和フォーミュラに基づく、和平を実現するための具体的な道筋、そのために必要となる各国からの支援、それを整理して出されたのがこの勝利計画です。NATOの加盟で色んな難しい問題がたくさんあります。ゼレンスキー大統領もよく分かったうえで、しかしこれが現時点でウクライナが考える、公平で永続する和平に向けた具体的な道筋だということで、議論の土台を出されたと」
(Q.ウクライナは国土を全て奪還しなければならないという立場は絶対崩れてないと思います。一方で、それがなかなか難しい。そうなると1回止めることを想像しますが、ウクライナの本音はどうでしょうか)
前駐ウクライナ大使 松田邦紀さん
「戦争の最後は外交の局面が必ずあります。ウクライナも防衛戦争をしながら、その延長上にしかるべきタイミングで停戦・和平という舞台を自ら作らなければいけないので、これは実は昨日今日言いだしたことではありません。ただ、それを言うタイミング、そしてそれを実現するために、戦場において優位な立場につけているかいないのか。そういったことを考えた時、東部戦線では厳しい局面が続いておりますけれども、クルスクへの越境作戦、あるいはクリミアに対する攻撃、ロシア領内の奥地の戦略的・軍事的な目的に対する航空攻撃ありました。この戦争は陸海空それぞれの局面、さらにサイバーなどの情報部門でも戦争は行われてますから、ウクライナとしては少しでも自らの立場を強めたうえで、外交に移るための準備を打ち出してきたと」
(Q.ウクライナはクリミア半島へ頻繁に攻撃しています。それはロシアに対して、クリミアを占領していることがどれだけ代償が大きいかを知らしめ、ロシアに圧力をかけているということですか)
前駐ウクライナ大使 松田邦紀さん
「全く仰る通りです。ウクライナ政府関係者の言葉、それから私が離任のあいさつ等々でお話を伺った方、皆さん異口同音に言っているのは『侵略戦争を始めたロシアに、この侵略戦争の痛みを感じさせなければいけない』。それは特にクレムリンの指導者もさることながら、一般市民に、この戦争がいかに無益で残酷なものであるかを知らしめる必要がある。そのためにはウクライナとしては、どうしてもロシア領内へ、あるいはロシアが占領している特にクリミアへの攻撃は、ウクライナとしては強化せざるを得ない段階にあります」
(Q.ウクライナが少しでも優位な立場を築きながら外交舞台に引きずり込む。そのための土台づくりとして将来計画というものを打ち出していくということですね)
一方で、中東ではイスラエルを中心とした非常に難しい問題が世界で起きていて、ウクライナに対する関心の度合い、力のかけ方がかつてと比較すると弱くなっているのではないでしょうか。1人の外交官としてどう感じますか)
前駐ウクライナ大使 松田邦紀さん
「中東での様々な出来事を見た時に、改めてこのウクライナの戦争の持つ意味をグローバルサウス、中東も含めてしっかりともう1度説明し、認識し、支持してもらう必要があると。具体的には、ロシアによるウクライナ侵略戦争は単なるヨーロッパのへき地における領土紛争ではなくて、1945年の第二次世界大戦以後、あの悲惨な戦争のがれきの中から、国際社会が人類が2度と同じような戦争を起こさないという反省に立って作り上げてきた、国連憲章に基づく国際連合・国際法・国際人道法・法の支配下など様々なものを、本来守るべき安保理の常任理事国のロシアが、あろう事かあからさまに破壊しようとしている。それはヨーロッパだけの問題ではないです。全世界にその影響が及びます。安全保障の面でもそうですし、エネルギー・食料・環境。それをグローバルサウスの人に知ってもらう。さらに理解してもらう。中東の戦争とウクライナの戦争は下手したらどこかでつながる危険はないのか。そういったことも含めて、今まさにウクライナを応援している欧米諸国や、わが国の外交努力が試されてる時期だと思います」
■3年目の戦争 日本の“役割”は
(Q.これまでのウクライナ支援で、日本はどのような役割を果たしてこれたでしょうか)
前駐ウクライナ大使 松田邦紀さん
「振り返ってみまして、日本の最大の役割は、侵略戦争の開始当初から、当時の岸田総理は『今日のウクライナは、明日の東アジアかもしれない』と言ったうえで、この戦争の本質を明確に全世界に提示された。すなわち、ウクライナから遠く離れた日本が、この戦争は単にヨーロッパの戦争ではないと、国際社会全体に関係することだと。だから日本は強力にウクライナ支援をすると同時に、対ロ制裁をすると明確にしたことで、この戦争の本質がしっかりと国際社会に提示されました。この外交的な日本の役割は極めて大きかったし、決して過小評価されてはならないと。そのうえで、具体的には、戦後復興を経験した日本、度重なる自然災害から立ち上がってきた日本が、復興のためのノウハウや経験も惜しみなく出しました。そのなかで出てきた日本の地雷除去、あるいはエネルギー支援・人道支援といったものは、日本が相当迅速に行ったことで、ウクライナの人からすると、遠く東アジアにあるにもかかわらず、日本という大変に力強い仲間がいるということが分かった。欧米諸国からすると、日本という仲間が一緒にウクライナ支援をしてくれてるということが分かった。そういう意味では、日本の最大の役割は、ウクライナ問題に関して、同志国・パートナー国の団結を作るにあたって大きな役割。
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