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5月18日、静岡県知事選での女性支持者の集会における上川陽子外相の発言が話題になった。「うまずして何が女性か」という発言の一部が見出しになり、出産しないと女性と認めないと言ったとされて猛烈に炎上したのだ。
私は一瞬「それはひどい発言だなあ」と思ったが、記事の中身を読むとモヤモヤした。いくつかの記事を読んで確認したが、発言の内容は「子どもを産むこと」ではなく「応援している候補者を知事として生むこと」を言っていた。
候補者を応援して知事にすることを、「生む」と表現すること自体はまあいいと思うのだが、「そうせずして何が女性か」との言い方は気持ち悪いなと思った。そこは非難されても仕方ないとは感じる。
だが、わざわざ記事にすることだろうか? ちょっとまずい言い方で、今どき男性だ、女性だとの言い方は「不適切」ではある。だが「不適切にもほどがある」とまでは思わない。むしろ、これを記事にして咎めるのは「不寛容」に思った。
■「産まずして」? 「うまずして」?
逆に、この記事は見出しがおかしくないかと思った。「うまずして何が女性か」を抜き出して見出しにするのは、「子どもを産まないと女性と認めないと言ったぞ!」との意図でしかない。これは嫌らしい見出しだ。この見出しの方がよほど「不適切にもほどがある」と思う。
さらにいろんな記事を見た中に「産まずして何が女性か」と明らかに出産についての言葉と表現した見出しも見かけた。「産まずして」と「うまずして」が混在している。時系列を追うと「産まずして」が「うまずして」に変わっていたようだ。これは怪しいではないか!
つまり、最初は出産しないと女性じゃないと言ったことにしたい見出しだった。途中で「うまずして」に変えとこうと修正したように思える。それは「産まずして」は意図的に誤解をさせようとして書いた見出しであり、騒ぎになったのを見てやりすぎたと修正したのではないか? 言わば、見出しを改ざんしたのではないか?
■ネットニュースも見出しが混在
検索すると、こんな見出しの並びを発見した。
これは、19日18時30分ごろにヤフーニュースで「産まずして何が女性か」を検索したら表示された画面だ。やっぱり最初は「産まずして」の見出しだったのだ。
ここには四国新聞の記事や京都新聞のX投稿が出てきている。つまり、地方紙が通信社からの記事配信を受けてそのまま「産まずして」と掲載したのだ。ところがそれぞれの記事を開くと「うまずして」に修正されている。京都新聞のX(旧Twitter)投稿のリンク先も同じだ。Xと見出しが違う。
しかも、それぞれの記事には何時に修正したなどとも書いていない。なにをやってるんだろうか、この人たちは。
■ニュースの見出しが「炎上」を作り上げた
この記事を地方紙に配信した通信社は、共同通信だ。
共同通信は大きなニュースが起きると100字前後の「番外」と呼ばれる速報を出すそうだ。それから15分ほどして「一報」と呼ばれるニュースを配信、その後要素を加えていって「本記」として完成させる。
この場合、番外で「産まずして」と表記し、一報から「うまずして」と変更したと見て間違いなさそうだ。私は長年言葉に携わってきた者として、当初は意図的に「産まずして」と漢字を使ったと推測する。実際、共同通信の英語版記事を配信する同社国際部も、産経新聞の取材に対して「一連の発言は『出産』を比喩にしたものと考えられます」という見解を示している。
〈参考記事〉
外相「うまずして」英訳記事、男性に言及あり「明示なくても『出産』比喩」 共同通信回答(5月21日、産経新聞)
「産まずして何が女性か」じゃないと失言にならないからだ。この漢字だからこそ直感的に「大失言だ!」と受け止める。だからものすごい勢いで記事が広まったのだ。地方紙だってこぞって即掲載しただろう。こんなにおいしい失言もないぞと。だからこの記事が拡散されるスピードは早かった。
「上川外相が子どもを産まないと女性じゃないと言った!」と世間は受け止め、今の自民党への批判ムードも相まって炎上した。最初に「うまずして」だったらあれほどの騒ぎにならなかったはずだ。見出しを見た瞬間、「子どもを産まずして」との意味と受け止めたから爆速で広まった。
そして多くの人は見出しだけ見て判断してしまう。かくて、上川外相が意図していないことが言ったことになった。見出しが事実を作り上げたと言ってもいい。
■失言を前提としてコメントするキャスター
しかも、見出しは「改ざん」された。それでも「子どもをうまずして」と、元の見出しと変わらない意味として伝わっていった。最初の表現は大きいのだ。だって各紙が最初の見出しで拡散してしまったのだから。
この件は、そこから奇妙な展開になる。テレビでもニュースとして報じられたのだが、すっかり上川外相が大失言をした前提の空気で伝えている。中には本当の発言を詳しく伝えるニュースや、録音された音声を流して伝えるニュースもあった。
ところが、「発言をよく聞くと、子どもを産まずしてとは言ってないですね。ただ外相ともあろうものが、誤解を生むような発言をするのはいけませんねえ」とキャスターたちがコメントする。おいおい、誤解を生む発言にしたのは共同通信であり、あなたがたマスコミ全体でしょう! 自分たちで勝手に誤解しといて、「外相ともあろうものがいけません」とは何事だろうか。
■ちゃんとした読者は「マスゴミ」を批判
マスコミの皆さんに知ってほしいのだが、みんな馬鹿ではない。ちゃんと記事の中身まで読んでこの見出しはおかしいと言っている人は大勢いた。「うまずして」とともに「見出し詐欺」とか「切り取り報道」もXにトレンドに入っていた。久々にあちこちの投稿で「マスゴミ」の言葉を見た。私はこの言葉を使わないようにしているが、今回はマスゴミ呼ばわりされても仕方ないだろう。ああ情けない。
「産まずして」は完全に事実と違う釣り見出しだし、「うまずして」にさりげなく改ざんされて説明もない。さらに、なぜか「産まずして」の印象のまま拡散されニュースにもなり、おまけに上川外相も謝ってしまった。「誤解されるようなことを言って申し訳ない」とのことだ。「とりあえず謝っとけ」という態度が逆に国民を舐めてるんじゃないか? そこをこそ、マスコミに批判してもらいたい。
さてこの件に私が腹を立てているのは、これが初めてではないからだ。共同通信には「前科」がある。少々細かすぎて伝わらない話だが、ぜひ最後まで読んでほしい。
■NHKネット受信料をめぐる報道でも…
私は放送業界の今後がどうなるかを熱心に追っている。そのテーマは「総務省の有識者会議」で議論される。2022年9月に「公共放送ワーキンググループ」というNHKの今後を議論する有識者会議がスタートし、私はWEBで傍聴した。最初の回だったので、有識者の挨拶で終わった感がある。
その時に総務省が出した検討項目は「インターネット時代における公共放送の役割や在り方、ネットでの民放との関係や財源、受信料制度」と整理されていた。有識者たちは会議への抱負を述べながら、「ネット端末を持っているだけで受信料を取る制度にはすべきでない」とほぼ全員が明言していた。
一人の有識者が、同じことを言った上で、「ネットでも公共放送を見たいと言う人から受信料を取ることは検討していい」と発言した。その会議の資料がこれだ。受信料は最後のテーマとして表記されている。
会議が終わりしばらくしてネットを開くと、共同通信の記事がヤフートピックス入りしていてネットが大騒ぎになっている。「ネット時代の受信料検討へ 事業拡大の是非も議論」という見出しに驚いた。私が傍聴していたのと同じ会議の記事とは思えない。「受信料検討へ」と書くと、まるでネットで受信料を取る目的の会議に見える。「事業拡大の是非」なんて検討項目に入っていない。
■「スマホから受信料徴収」と誤解が広がった
この記事は巧妙にできていて、嘘は書いていない。だが、一部を誇張してあり実際の会議と違う印象を与えようとしている。誤解を与える「意図」があると言っていい。さらに姑息なのが記事のこの部分だ。
「会合では、テレビを持っていなくてもスマートフォンなどで積極的に放送を見る人については『負担を議論していく必要がある』との意見が有識者から出た」
有識者たちが「スマホを持っているだけで受信料を取るべきではない」と発言したことはまったく書かれていないのだ。「ネットの時代の受信料検討へ」の見出しの後でここを読むと、「スマホから受信料を取るための会議」と早合点してしまう。それで炎上していたのだ。
■なぜ見出しを変えたのかの説明はないまま
この時、私は慌ててヤフーのオーサーコメントを書き、「この記事は実際に私が見た会議と違う」と訂正した。コメントとしては珍しく10000以上の「参考になった」をもらったが、焼け石に水。世の中の多くが、「NHKはスマホから受信料を取ろうとしている」と誤解した。
私が共同通信の「前科」と言うのはこのことだ。そして起こったことが似ている。「総務省がNHKのネット受信料を取るための会議を始めた」という、起こってないことを起こったように書いた。今回も、上川外相は「子どもを産まずして何が女性か」とは言ってないのに言ったことになった。
しかも見出しの改ざんがあったのに何のアナウンスもない。配信を受けて記事にした地方紙も、説明せずに見出しを変えたのは同罪だ。しかもお粗末なことにネットには「産まずして」がしばらく残っていた。
■「スクープ」のようで中身の薄い速報
私はかねがね、共同通信のネットでのニュース配信のやり方に疑問を持っていた。先述の「番外」や「一報」の段階の記事は、本文の情報が薄い。見出しを見て本文を読んでも具体的な内容が見えない。
ところが、共同通信が短い見出しでニュースを出すと、その時点でスクープ記事のように見える。内容が見えないことが逆にスクープらしさを助長する。実際にそんな形で出るスクープ記事は多いのかもしれない。だが過去に何度も、私が取材するメディア業界について「これはニュースと言えるか?」と思ってしまう内容を共同通信はニュースにしていた。すると業界初のスクープに見えてしまう。
このやり方は、ネットの時代に合わなくないだろうか。今回の一件がまさにそうだ。昔は、そういう出し方でも新聞に載るまで時間がかかった。だがいまは、即座に各紙各媒体が「番外」や「一報」を見て記事にする。それが、「見出し詐欺」を拡散してしまったのだ。
今回の騒動では、マスメディアに「失望」を感じた人は多いと思う。ここで見直さないと、同じようなことをまた起こしてしまい、マスメディア全体が見放されてしまいかねない。ネットでのあり方を、NHKだけでなく全ての既存メディアがもう一度見直す時だと思う。
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境 治(さかい・おさむ)
メディアコンサルタント
1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。
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(メディアコンサルタント 境 治)
]...以下引用元参照
引用元:https://news.nifty.com//article/magazine/12179-3061104/