炎上リサーチは芸能、事件、スポーツ、ネット全般の最新情報を24時間更新を続けるまとめサイトです。
ジャニーズ・ワールドカップ情報もお知らせします。
ブログランキングに投票お願いいたします。
[
日本の民主主義は「お任せ民主主義」と言われる。特に地方選挙では投票率が低く、無投票当選も珍しくない。選挙が終わったら、後は当選した政治家にお任せだ。
でも、そうした「お任せ民主主義」を放置した結果、一体どんな事態になっているのだろうか。これは、高齢化率が神奈川県でトップクラスの40%超えで、人口2万3000人の「温泉とみかんの町」、湯河原町で起きていたことだ。
湯河原町では長年、驚くようなことが慣例的に行われていた。
1、税金滞納者約2000人のリストが、秘密裡(り)に10年間も町議員に配布され、回収もされていなかった。
2、条例で定められた町職員の時間外手当がずっと支払われず、20年以上もサービス残業が続いていた。
「湯河原町職員の時間外手当、3年間で8200万円が未払い」神奈川新聞、2023年9月16日
特に、1の滞納者リストは、単なる名前と住所の羅列ではない。該当する個人・法人の住民税や固定資産税、上下水道料金、公営住宅家賃、介護保険料に至るまで、個人情報がこと細かくExcelの表にしてまとめられていた。紙表紙のファイルで綴じられたA3サイズの冊子になっていて、厚さは2、3センチもあった。この冊子が議員に配布された後の行方は、不明。具体的にどう利用されていたかも謎だ。
■新人議員が税金滞納者リストの配布に疑問を呈したら…
これは問題ではないか、と指摘したのが、東京から約20年ぶりにUターンした新人議員の土屋由希子氏だ。2020年3月に37歳で初当選。その年の9月の町議会で、個人情報の保護や地方税法の守秘義務の観点からどうなのか、問題提起をした。おかげで町民はやっと、町議会と町が長年、内緒でしていたことを知ることになった。
ところがその後、さらに驚くべき展開となった。土屋氏は秘密を漏らしたかどで、懲罰に処されたのだ。滞納者リストは町税についての特別委員会で配られていたが、その時だけ非公開の秘密会に切り替えられていた。秘密会の議事内容を漏らすのは懲罰に値する、というわけだ。議会での陳謝を求められ、土屋氏が拒否すると、今度は出席停止処分になった。
その上、土屋氏の懲戒処分が、議会広報誌に4ページにわたって大きく掲載され、新聞の折り込みや公共施設や大型マンションへの配架を通じて、町中に伝えられた。滞納者リスト漏洩(ろうえい)の話は一切触れられることなく、土屋氏がルールを破ったことだけが特筆された。土屋氏の署名入りの陳謝文も、本人の同意なく、議会側が一方的に作成して一緒に掲載された。
■土屋議員は「秘密会」の内容を漏らしたと懲戒処分になった
誰もがおかしいと思うようなことを指摘すると、罰せられるという理不尽。これでは、皆が結託して黙っていさえすれば、秘密会で何をしていてもおとがめなしで、誰もチェックできないことになる。そんな力を、私たちは議会に与えているだろうか。
滞納者リストの配布は、町民の間でも問題となった。市民団体「ゆがわら町民オンブズマン」が秘密会の議事録の公開を求めたが、町側の答えはノー。以後、訴訟に発展する。市民団体は2021年4月、横浜地裁に提訴し勝訴。東京高裁も町側の控訴を却下。ところが町側は判決に従わなかった。引き続き町民側の情報公開請求を拒否。司法判決すら無視するという事態だ。やむなく市民団体側は2023年1月にもう一度提訴。今年3月再び横浜地裁で勝訴した。全く同じことが繰り返された結果、町側はとうとう今月、控訴を断念した。
元々、秘密会にされていた町税委員会は、税金滞納対策のためのものだった。なのに、何度も繰り返された町側の高額な裁判費用は、税金から支払われるという皮肉。「控訴断念で、これ以上税金の無駄遣いをしなくてよかった」と市民団体側が語ったほどだ。その間、さすがに個人情報は伏せ、滞納額の上位とその人数を税目ごとに示す形に変わったというが、いまだに何のために、個人情報つきのリストを、秘密会で配布していたのかは不明のまま。
■議員も追及しない湯河原町議会の文字通りの「秘密主義」
市民団体側の弁護をしてきた大川隆司弁護士によると、湯河原町議会は2011年以降25回にわたり、この町税委員会で秘密会を開いている。全国の自治体が約1700あるうち、秘密会の開催は年20回程度。「普通の自治体なら、百年に1回開くような稀(まれ)なもの。湯河原町はあまりに頻繁で異常だ」と指摘する。
そもそも議会は、公開が原則。秘密会は憲法に規定があるが、開催は極めて例外的であるべきだ。一方で湯河原町議会では、多くの自治体で導入済みのネットやケーブルテレビによる議会中継はゼロ。今年3月の神奈川新聞の報道によると、4年間の任期中、本会議の一般質問をしたことが1回以下という現職議員が半数以上に上る。ゼロだった議員も4人。うち1人は18年間1回も質問したことがなかった。
「湯河原町議会、一般質問1回以下が半数超え ベテラン議員ほど少ない傾向」神奈川新聞、2024年3月26日
「働いても働かなくても、議員報酬は変わらない。町の議案に反対すると、逆に仕事が増える。支援を受けている業界団体のため、補助金を獲得する必要があり、町長と仲良くしないと困る場合もある」と、土屋氏は背景事情を語る。でも、そのために行政にものを言いにくいということになるのであれば、本末転倒だ。
■観光客誘致のため芸妓を呼ぶなど、税金の使い方がズレている
日本の地方自治は、二元代表制となっている。首長と議員の両方を、住民が直接選挙で選ぶ形だ。行政の運営が適切に行われているか、審議や議決を通じて議会でチェックするとともに、議員が政策提言を行うための制度だ。
土屋氏自身は、議会や委員会の場で、おかしいと思ったことはどんどん指摘してきた。当選直後はちょうどコロナが深刻化し始めた時期。緊急事態宣言が出て、三密を避けようという呼びかけが行われていた。にもかかわらず、そのさなかに町は、観光客誘致キャンペーンとして芸妓を宴席に呼べるお座敷券を予算に計上した。
また、当初のマスク不足が解消してマスクがだぶつき、アベノマスクが批判を受けていたころになって、町民一人当たり5枚の使い捨てマスクの配布も計画。どちらの予算案も「ずれている」と思って反対したが、多数決で可決された。
他にも、道の駅の整備調査費を計上したが、最初からわかっていた課題に対処できずに、あんのじょう頓挫(とんざ)したり、小さい町で通勤距離も短いのに、運転手つきの高級車を借り、町長車と議長車として多額の予算をつけたりと、税金の使い方として首を傾げることが多々あったという。
■600万円かけて謎の「みかんモニュメント」を作ろうとした
中でも驚いたのが、インスタ映えを狙うと言って、みかん箱を乱雑に積み重ねた上に特大のみかんが乗るというモニュメントを湯河原駅前に設置しようと、町側が計画していたことだ。それも、最初は600万円という費用だけが予算案の中に計上されていた。中身について議会で質問しても、町側はデザインも設置場所も、具体的に答えられなかった。「民間だったら、こんなプレゼンテーションに予算をおろすことは考えられない」と土屋氏。その後町側が出してきたのが、そのみかんオブジェだったというわけだ。SNSで炎上しかねない、と結局プランターのようなものに変わった。
土屋氏の話を聞くと、私たちの税金がどう使われているか、地方行政と地方議会がどのように運営されているか、内幕が浮かび上がってくる。
だが、忖度(そんたく)せずに意見を述べる土屋氏は、「新人のくせに」と議会と町の双方からたたかれてきた。一般質問をするとやじられ、あいさつすると無視され、議会運営委員会で「あの発言は問題」と他議員から集中砲火を浴びたという。議案にある内容を確認しようとしても、町職員が答えなかったり、冒頭で触れた、町職員の時間外手当の未払い問題について発言すると、「地方公務員法の秘密に抵触する可能性がある」と、ありえないことを町から言われた、と土屋氏は話す。
■既存勢力に反発する女性議員は圧力をかけられる
そうした状況についてSNSで発信すると、さらに責められ、圧力をかけられる。「萎縮させるのが目的だ」と土屋氏は考えている。そうしたハラスメントの大半はほとんど表に出ず、ブラックボックスに入ったままで、外からはわかりにくい。
だが土屋氏の経験は特別ではなく、他の議会でも少なからず起きている。特に女性議員は、バッシングの対象になりやすい。新人の女性議員がそうやって圧力をかけられていくうちに疲れて、次の選挙に出ることを止めてしまう、といったことも稀ではない。「政治家=権威がある」「女性=受動的」といった固定観念から外れたものとして女性の政治家は捉えられ、嫌悪感や恐怖感を抱かれることがある、と土屋氏は感じている。
政治分野のジェンダー平等が世界でも最低水準の日本で、女性議員増は喫緊の課題。だが、単に当選したと喜んで終わるのではなく、彼女たちが議員として働きやすい環境に変わっていかなければ意味がなく、女性議員がいつまでたっても育っていかない状態が続く。
■議員当選、懲罰、辞職勧告、町長選で敗退という浮き沈み
町議になってからの4年間、土屋氏はまるでジェットコースターに乗っているかのように、浮き沈みを繰り返してきた。隣の真鶴町長選を応援していた2021年、選挙人名簿を手書きで筆写すべきところを撮影して問題になり、辞職勧告された。「一人で戦っていては、らちがあかない」と2023年4月、町長選にも挑戦した。だが得票は約4600票にとどまり、約6200票を取って5選を果たした冨田幸宏氏に敗れた。
訴訟も負けた。滞納者リスト問題で懲罰を受けたのは名誉毀損(めいよきそん)だと2021年1月、町側を提訴。地裁では勝訴したが、高裁での控訴審で逆転敗訴。最高裁への上告は今年3月、不受理に終わった。「秘密会に対する判断を避けて、議会報の掲載問題に矮小(わいしょう)化した結果だ」と土屋氏の弁護も務めた大川弁護士。議会内の少数派いじめに懲罰制度が乱用されることが全国的に増える中、最高裁が2020年、60年ぶりの判例変更に踏み込む事態に発展している。「そのこと自体に異を唱えた判決ではない。その足元に達する前の段階で、小さな問題として処理してしまった」と大川氏は話す。
■2024年3月の町議選ではぶっちぎりのトップで当選し復活
ただ、今年3月の町議選で、土屋氏は前回に続きトップ当選を果たした。しかも自ら立ち上げた「地域政党ゆがわら」から出馬した産婦人科医の新人候補、早乙女智子氏を応援しながらの選挙だった。早乙女氏も上位入選し、まずまずの結果。ようやく孤立状態から脱し、2人会派となった。「裁判では負けたけど、民意は自分を支持してくれた」と土屋氏は受け止めている。
土屋氏とコンビを組む早乙女氏は、「隠されていたことを暴いて、懲罰を受けるなんて絶望的。民主主義を破壊する行為。でも土屋さんはしっかり生き延びてきた。今後はいじめのない議会にするため、見張り役となり一緒に戦う。低迷している日本の国力を盛り上げるのが女性の力」と話す。
62歳の早乙女氏は「女性が置かれている状況がひどすぎる」と医療現場でずっと感じてきたという。医者で終わるのではなく自己実現や社会貢献をしたいと思い、湯河原町に移住して立候補した。
町長選までは口にしてこなかったが、実は土屋氏は、湯河原温泉の代表格だった、今はなき天野屋旅館の支配人だった祖父を持つ。天野屋旅館は夏目漱石が逗留し、その絶筆となった『明暗』にも登場する由緒ある旅館だ。「湯河原の旅館をずっと回してきたのは女性たちだ」という自負が土屋氏の中にある。でも「旅館業の利益を代弁するために議員になったわけではない」と言う。
■少子高齢化の波に抗って町を活性化できるかが課題
「議員が支持組織の利益を代表するタイプの政治はもう古い」というのが土屋氏の考えだ。20年後の町をどのようにしたいか、そのために今何をしなければならないか、というところから発想していかないと、高齢化と少子化の進む湯河原はやがて消滅してしまう、という危機感が強くある。
40代となった土屋氏は湯河原生まれだが、もう今、湯河原で子どもが生まれることはない。既に町内には分娩設備があるクリニックも助産院もなく、小田原などに行って産むしかないのに、その状況が放置されている。「今、湯河原で育っている子どもたちのために、こんなに頑張ってやっている。自分のためだったら、とても無理」と、2児の母でもある土屋氏は話す。
だが地元の高齢者と話すと「自分はもう長く生きないから」と言われたりする。生まれ故郷で「お任せ民主主義」を変えようとする彼女のような人材が、今後どれだけ若い世代から出てくるだろうか。そのこと自体が将来どんなに貴重なことになる時代がくるか、たぶん私たちはまだよくわかっていない。
----------
柴田 優呼(しばた・ゆうこ)
アカデミック・ジャーナリスト
コーネル大学Ph. D.。90年代前半まで全国紙記者。以後海外に住み、米国、NZ、豪州で大学教員を務め、コロナ前に帰国。日本記者クラブ会員。香港、台湾、シンガポール、フィリピン、英国などにも居住経験あり。『プロデュースされた〈被爆者〉たち』(岩波書店)、『Producing Hiroshima and Nagasaki』(University of Hawaii Press)、『“ヒロシマ・ナガサキ” 被爆神話を解体する』(作品社)など、学術及びジャーナリスティックな分野で、英語と日本語の著作物を出版。
----------
(アカデミック・ジャーナリスト 柴田 優呼)
]...以下引用元参照
引用元:https://news.nifty.com//article/magazine/12179-2973830/