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さまざまな速度であちらこちらに投げられるボールを、必死に追いかけるように読む短編集だなと思った。予想外の方に飛んでいったボールを慌てて拾いにいったり、うまく取れて嬉しくなったり......。受け止めた衝撃で手が痛くなるボールもあるのだけれど、全部読み終わった後は、たくさん遊んだ後のように気分が晴れやかになっている。
『めんや 評論家おことわり』の主人公は、ラーメン評論家だ。過去に別名義で書いていたブログが炎上し、窮地に立たされている。今最も話題のラーメン屋「のぞみ」の女性店主から、他の客や従業員に対する迷惑行為を理由に、出禁にされていることも話題になってしまい、仕事は激減して仲間も去っていった。謝罪文をSNSに掲載したところ、「のぞみ」の店主と親しいといういけ好かないラーメン評論家から連絡が来る。店主が謝罪を受け入れてくれたと聞き「のぞみ」を訪れるのだが、そこには意外な人々が待っていた。
「BAKESHOP MIREY'S」は、東北の山間にある街の留学斡旋会社に、東京本社から赴任してきた女性・秀実が主人公だ。行きつけの焼き鳥屋で、ランチタイムにアルバイトをしている近くのスナックの娘・未怜と親しくなる。イギリスのお菓子が好きで、この町でベイクショップを開くのが夢だが、経済的に恵まれないため難しいと未怜は言う。ふわふわと夢を語っているだけで、現実的な行動は何もしていないと秀実の部下は批判する。だが、翻訳家になるという目標のため親の支援を受けてイギリスに留学していた秀実は、彼女を応援したいと思う。夢を叶えてほしいという気持ちからある行動を起こすのだが、街の人々からも本人からも、意外な反応が返ってくる。
著者は、女性同士の連帯を小説のテーマにすることが多いが、その素晴らしさだけでなく、難しい部分やうまくいくばかりでない現実も書いているところが私は好きだ。この短編集の中にも、こんなふうに力を合わせて前に進めたらいいねと痛快な気持ちになる結末もあれば、気持ちがすれ違うもどかしさが描かれているものもあって考えさせられる。
そして、理不尽な扱いを受けた人々の反撃は清々しく、読んでいるとスカッとした気分になると同時に、冷たい傍観者や人の痛みを想像しない野次馬だったこともきっとある自分に、ヒヤッとしてしまった。強烈なパンチを喰らう登場人物たちには、ざまあみろと言いたくなるけれど、著者は彼らを徹底的に追い詰めることはしない。出口を完全には塞がず、やり直すチャンスを残しているところにホッとする。
私が一番好きなのは「商店街マダムショップは何故潰れないのか?」というタイトルの一編だ。そうそう!長く続いている商店街って、誰が買うのかわからない謎の高額雑貨やら、妙な具合にデコラティブな衣服が並んでいる時間の止まったブティックみたいな店がなぜだか残っていることが多い。ああいう店の経営はいったいどうなっているのか、私も不思議に思っていたけれど、知人と前を通りかかる時にネタにするくらいだ。そこからこんなユニークな物語を生み出せるなんて!小説家ってすごいなあ......。
マダムショップが気になってる人、ぜひ読んでみてください。
(高頭佐和子)
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]...以下引用元参照
引用元:https://news.nifty.com//article/item/neta/12116-2906895/