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人気玩具「レゴ」のテーマパーク、「レゴランド・ジャパン」(名古屋市)の顧客対応が物議を醸している。今回の対応は、褒められたものではない。
来場者は「子ども用のチケット」で入場したとスタッフから疑われ、差額の支払いを求められた。さらに、40分以上も寒空の下で待たされた挙げ句、スタッフ側の間違いだったとわかったのに説明や謝罪はなかったという。
来場者はこうした経緯をX(旧Twitter)に投稿。それに対して「レゴランド・ジャパン」の本多良行社長が直接対応したのだが、本多社長が来場者と交わしたDM(ダイレクトメッセージ)のやりとりを無断で公開し、炎上した。
というものである。
もとになったトラブルだけではなく、わざわざ社長が介入したばかりか、個人同士のやりとりを勝手に公開する。しかも、炎上したとなるや、釈明せずに、すべての痕跡を消してしまう。
顧客対応として教訓を引き出せるだろうし、そうした議論は、すでになされている。
いまさら、レゴランドのサービスが悪いとか、顧客ファーストではない、といった、個別の批判をしたいわけではない。
それよりも、今回のポイントは、彼が見せた「万能感」にある。自分だけが正しいかのような振る舞いの背景に、その経歴があるのではないか。
■「MBA→外コン→30代社長」のエリート
現在42歳の本多良行社長は、2005年にアメリカのインディアナ大学を卒業後、2012年にミシガン大学でMBA(Master of Business Administration=経営学修士号)を取得している。
その3カ月後から、コンサルティング会社「ローランド・ベルガー」に入社し、約2年後の2014年に同業のストラテジーアンド(東京オフィス)に移り、2017年から4年間、ホテルコンサルティング会社「HRSジャパン」の社長を務めてきた。
アメリカのMBAホルダーで、外コン(外資系コンサルタント会社)出身で、30代で社長に就く。
肩書は非の打ちどころがない。エリサー(エリートサラリーマン)の頂点ではないか。なんでもできるし、自分は間違っていない、と思うのも無理はない。
「レゴランド・ジャパン」社長就任の発表では、つぎのように宣言している。
“いましか、家族でできない”特別な体験を通じて家族の時間と大切な思い出を提供してまいります。そして、多くのご家族の心に残る、楽しかった思い出の場所がレゴランド・ジャパンであるよう、引き続きゲストとスタッフの健康と安全を第一に運営してまいります。今回の炎上騒動の発端となった人たちにとっては、たしかに「心に残る」出来事には違いないものの、そうした皮肉を言いたいわけではない。
それよりも、本多社長が、経歴の上では、レゴどころか、エンターテインメントの職業経験が、まったく見えないところが注目に値しよう。
本多社長は、いわゆる「プロ経営者」なのである。
ここでは、その意味を考えてみたい。
■「プロ経営者」と「アマ経営者」
ローソンからサントリーの社長になった新浪剛史氏をはじめ、少し前には、カルビーを再建しライザップに呼ばれた松本晃氏、さらには、日産自動車元会長のカルロス・ゴーン氏も含まれるかもしれない。
いずれも、過去に業績を上げた実績があり、企業の外から招かれた点で「プロ経営者」と呼ばれているのであろう。
企業の経営戦略を専門とする牛島辰男氏は、「伝統的に、日本企業の経営者では組織内部での昇進を積み重ねてきた生え抜き型が圧倒的多数を占める」事情があるため、「従来型の経営者と区別するために何らかの用語を当てることに、私はいささかなりとも異論はない」と述べる。
その上で、「英語のprofessionalの対語はunprofessional」だとし、「アマ経営者(unprofessional manager)」は、「かなり失礼な表現だと感じるのは、私だけではないだろう」と疑問を呈する。
しかし、professional managerもunprofessional managerも、どちらも英語としては成り立たないのではないか。
実際、英語では「プロ経営者」に当たる言葉は、管見の限り、見つからない。
その組織の運営に責任を負う立場=経営者は、「プロ」でしかありえない。「アマチュア」でも「素人」でも困るし、そんな人物は経営者に選ばれないし、選ばれるべきではない。
それなのに、「プロ」経営者との言葉が流行してきた。
なぜ、わざわざ「プロ」と付けるのか。
■「プロ経営者」は本当に「プロ」なのか
自信がないからである。
自分たちが奮闘してきた成果や努力、姿勢に確信が持てないからである。
日本のどこがダメか。何が時代遅れなのか。
「失われた10年」と言われた頃から、つまりは、平成の初期から、30年近くにわたってずっと、日本企業の欠点ばかり指摘してきた。
とりわけ「組織内部での昇進を積み重ねてきた生え抜き型が圧倒的多数を占める」人事システムは、上司の顔色を伺い、忖度(そんたく)にがんじがらめになる「アマ経営者」しか産まない、と非難の的になってきた。
日本のGDPがドイツに抜かれて世界第4位になりそうだとのニュースも、自信のなさに拍車をかける。
「プロ経営者」という言葉は、こうした不安の裏返しにほかならない。
自分たちのやり方が心もとないなら、いっそ外(というかアメリカ)で仕込まれた「専門家」に任せてしまおう。「プロ」である以上、責任もとってもらえばよい。そんな他力本願な姿勢から生まれたのではないか。
では、その「プロ経営者」は、本当に「プロ」なのか。そうとは言い切れない。
たしかに経営や経営学の「プロ」ではあるだろう。それは、ともすれば学問の知識や、経営者としての経験だけに依存しがちであり、いわば「専門バカ」になりかねないのである。
■「専門バカ」と「バカ専門」
急いで訂正しなければならないのは「専門バカ」が悪いわけではない、という点である。
「専門バカ」と批判する側こそ「バカ専門」だ、と、わたしは大学生のころ教師に言われた。何かの専門になる、それもバカと言われるほど、のめり込まなければ、その道を極められない。
何のスペシャリストにもならず、あるいは、なれず、文句だけを並べるのは「バカ専門」ではないか。これが、大学時代の教えだった。
みずからの殻に閉じこもる「専門バカ」と、ダメ出しするだけの「バカ専門」、その交わらない二項対立を続けるだけでは、いつまでも、今回のような炎上騒動は繰り返されるだろう。「プロ経営者」だから万能なわけでもなければ、全員が無能なわけでもない。
今回の本多社長の炎上は、彼が見せた「万能感」に問題がある。
自分は何でも知っているし、間違っていない、そんな思い込みは、彼のピカピカの経歴と「プロ経営者」としての自覚がなせる業だったに違いない。
こう書いている私にしても、社会学者という「専門バカ」であって、経営については「バカ専門」なのだろう。だからこそ、誰もが自由にモノを言える環境は貴重なのではないか。
餅は餅屋、という言葉は、人任せにして責任を逃れる免罪符ではない。反対に、それぞれの持ち場でプライドと責任を持って、謙虚な自信を持ちながら堂々と仕事をする。そんな姿勢をあらわしている。
「プロ経営者」を必要以上に持ち上げるのでも、不当に貶めるのでもなく、必要に応じて出てくれば良い、それだけのことではないか。
それを気づかせてくれたところに、今回の炎上から得られる教訓がある。
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鈴木 洋仁(すずき・ひろひと)
神戸学院大学現代社会学部 准教授
1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。
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(神戸学院大学現代社会学部 准教授 鈴木 洋仁)
]...以下引用元参照
引用元:https://news.nifty.com//article/magazine/12179-2768690/