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かつての“黒歴史”を完全に克服したドジャース。大谷が「キーマン条項」を発動する可能性は限りなく低い<SLUGGER>|ニフティニュース


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大谷翔平のドジャースとの超大型契約のユニークなところは、10年7億ドル(1015億円)の97%が後払いになる部分だろう。

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 今後10年間、大谷に支払われる200万ドルは、メジャーリーガーの年俸としては、フリー・エージェント(FA)権を得る前の選手や平凡な救援投手、控え捕手に支払われる額である。

 それゆえに一部の米解説者が「労使協定=ルール上は問題ないが、これでは他球団に不公平だ」などと批判するのだが、それについては選手会も承知の上だ。アメリカ経済のインフレ率などを計算した上で、現役では最高額となる年平均4600万ドル(およそ66億7000万円)が「仮想・大谷の年俸」として、Luxuary Tax≒ぜいたく税の課税対象額となるので、ドジャースがそこまで文句を言われる筋合いはない。

 こういう契約が成立したのは、大谷の勝利に対する執着心の現れだ。「勝利への執着心」ということで言えば、個人的にはオプトアウト(契約解除)の条項が最も興味深かった。

 メジャーリーガー全選手の契約内容を詳しく伝えている「Cot's Baseball Contracts」には、こう書かれている。

 キーマン条項:コントローリング(決定権を持つ)・オーナーのマーク・ウォルター、または PBO(President of the baseball operation=編成総責任者)のアンドリュー・フリードマンがドジャースを離れた場合、大谷はシーズン終了後に契約解除し、フリー・エージェントを選択する可能性がある。球団は大谷の給与支払い延期による貯蓄を、競争力のあるロースターの構築と維持に使用することに同意する。
  まあ、要するに「チームが競争力を失って、現在の経営トップと編成トップが退陣すればFAになるかもよ」ということだ。

 メジャーリーグでは競争力を長期間、保持しているチームを“Dynasty=王朝”と呼ぶが、ドジャースは2013年から11年連続でポストシーズンに進出、ワールドシリーズ優勝1回、ナショナル・リーグ優勝3回、地区優勝10度を果たしており、(球団史上何度目かの)まさしく“王朝”の真っ只中にいる。

「その王朝を今後も維持してくださいよ」という要求は、随分と疑心暗鬼に聞こえるが、いつまで経っても効果的な補強をしないエンジェルスで「ヒリヒリした戦い」ができなかったのだから、その心情は理解できる。

 それは古くからMLBに慣れ親しんできたファンにとっても同じで、メジャーリーグの球団は良くも悪くも、とても短期間で劇的に変わってしまうことを、我々はよく知っている。どんなに競争力があり、ロサンゼルスのように大きな市場を持つ経済的に余裕のある球団でも、一歩、編成方針や経営手法を踏み外せば、チームは簡単に崩壊してしまう。

 実際、ドジャースも過去にその辛酸を舐めてきたチームだった。

 04年、当時ドジャースを所有していたFOXエンターテイメント・グループとロバート・デイリー氏(現パラマウンド映画相談役)からチームを買収したフランク・マッコート氏の時代がそうだ。正確には最高責任者のフランクと、球団社長のジェイミーの「マッコート夫妻」と言った方がいいだろう。

 マッコート夫妻は直後、当時のダン・エバンスGMを解雇し、後任にベストセラー『マネーボール』で注目されたアスレティックスのビリー・ビーンGM(当時)の右腕だったハーバード大学卒のポール・デポデスタを後釜に抜擢した。
  デポデスタ新GMは、今ではどの球団も何らかの形で重宝しているセイバーメトリクスを導入し、低予算ながら高予算球団を打ち破った「マネーボール」のカギを握る存在だった。結果から先に言うと、同GMは統計分析を重視するあまり、現場の空気感を無視したことが波紋を呼んで、わずか2年で退陣してしまうのだが、そのきっかけは、就任1年目(04)のトレード期限の「ある補強劇」にあった。

 デポエスタGMはポール・ロデューカ捕手、救援ギレルモ・モタ投手、ホアン・エンカーナシオン外野手をマーリンズへ放出し、先発ブラッド・ペニー投手、チェ・ヒソプ一塁手、ビル・マーフィー投手を獲得するトレードを成立させた。

 後に殿堂入りする左腕ランディ・ジョンソン(当時ダイヤモンドバックス)を含む三角トレードを仕組んで失敗して成立したトレードだったという説もあるが、大事なのはデポデスタGMが、当時ドジャースの「精神的支柱」と呼ばれていたロデューカを放出したことである。地元メディアやファンの反発は凄まじく、今でならSNSで大炎上するようなレベルだった。だが、そのトレードのおかげで、前年85勝77敗で首位ジャイアンツに15ゲーム半差を付けられて2位に甘んじたドジャースは93勝69敗と大躍進し、9年ぶりの地区優勝を果たしている。

 そのプロセスでは、先のトレードで加入したマーフィーをすぐダイヤモンドバックスに放出し、ベテランのスティーブ・フィンリー外野手を獲得し、そのフィンリーが地区優勝を決める満塁本塁打を放つというドラマチックな場面もあったことから、「さすがデポデスタ!」と称賛するメディアも少なくなかった。
  ところが、地区シリーズでカーディナルスに1勝3敗で敗退すると、「ロデューカ放出」がチーム内に不協和音をもたらしていたことがリークされて記事になった。さらに同年、48本塁打を打ったエイドリアン・ベルトレー三塁手(今年の殿堂入り有力候補者)がFAとなって5年6400万ドルでマリナーズへ移籍した後、ドジャースが再契約のために提示したのがわずか3年3000万ドルだったとスクープされ、ファンやメディアの批判が再燃した。

 翌05年は主力選手の怪我が相次ぎ、地区4位に低迷。71勝91敗は1958年にブルックリンからロサンゼルスに移転後ワースト2位の成績で、デポデスタGMはまたもやファンやメディアから総攻撃を食らって、就任からわずか2年で退陣に追い込まれてしまった。いわゆる「お家騒動」というやつだ。

 後任は前ジャイアンツGM補佐のネッド・コレッティで、コレッティはデポデスタGMが残した戦力を有効活用して、「プチ王朝」を築いた。ヤンキースで4度の世界一に輝いたジョー・トーリ監督を招聘し、前出のペニーや黒田博樹、後にサイ・ヤング賞とMVPを同時受賞する左腕クレイトン・カーショウらで構成される強力先発陣と、ラッセル・マーティン捕手やジェームズ・ローニー一塁手、後のMVP候補マット・ケンプ、アンドレ・イーシアー外野手ら二十代の主力選手が台頭した08年から地区2連覇を達成した。

 マッコート体制下でのドジャースは、12年までの9年間で3度の地区優勝を含め、4度もポストシーズンに進出。リーグ優勝決定シリーズで2度、地区シリーズで2度敗退し、88年以来のワールドシリーズ優勝には至らなかったものの、「ヒリヒリした戦い」は毎年見せていたわけだ。しかし、そんなところに起こったのが、今度は経営陣の「お家騒動」だった。
 
 09年、マッコート夫妻が30年近い結婚生活を経て別居すると発表。当時、最高経営責任者になっていた妻ジェイミーが「ドジャースの焦点はプレーオフとワールドシリーズにある」と述べた直後、解任された。夫フランクは「(離婚と)チームには何の関係もない」と主張したものの、ドジャースの単独所有権を確立するために法的手段を行使。ジェイミーはその独断に敏感に反応し、「私はチームの共同所有者として承認されるべきだ」と主張し、離婚係争にドジャースが巻き込まれる事態に陥ってしまった。 それでも球団はFOXと20年契約を締結し、総額25億ドル~30億ドルとも言われる巨額の放映権収入を背景に、ドジャース保有に問題ないことを主張するが、マッコート夫妻が何年にも渡って巨額の脱税をしながら、ドジャースから収益を得ていたのではないか? と査察が入ったと報道されるなど、事態は混迷を極めた。

 そこで11年、コミッショナーのバド・シーリグ(当時)は、先行き不明な経営状況を懸念して、ドジャースをMLB機構の監視下に置くという声明を発表。マッコート氏は反発したものの、それ以上の経営権存続は不可能と判断し、翌12年、投資グループのグッゲンハイム・ベースボール・マネジメントへの売却を発表するに至った。

 それによって球団の運営権を手にしたのが、大谷の入団会見でも紹介されたマーク・ウォルター・チェアマン、スタン・カステン社長のツートップである。

 彼らはドジャース買収後、編成トップに低予算ながらヤンキースやレッドソックスと互角以上の闘いをしていたレイズのアンドリュー・フリードマンGMを引き抜き、今の“王朝”を築いたわけだが、その終わりを予感させるものは今のところ一つもない。

 フリードマン編成総責任者が、さらなるヘッドハンティングで流出する可能性も極めて低い。
  なぜなら、前出のドジャースの経営トップは、14年当時、「編成トップとしては市場最高額」と言われた5年3500万ドルでフリードマンを雇ったわけで、19年の契約更新時にも去就がまったく話題にならなかったことを考えると、現状に不満を抱いていないことが分かる。

 あるとすれば、ウォルター・チェアマンやフリードマン編成総責任者の「引退」だが、それについてもあまり心配する必要はないだろう。

 なぜなら、現在の経営トップは前任者のような家族経営ではなく、投資家グループによって成立している「ビジネス集団」であり、人事異動が必然となる際には必ず、信頼に足る後任者を選出するはずだからだ。それに、フリードマン編成総責任者には「高い競争力と年俸総額の維持」を達成するミッションとは別に、人材の発掘と育成というミッションも併せて達成してきた実績がある。

 実際、フリードマンの下で働いた後にGMや編成トップになった人材は多い。レイズのピーター・ベンディックス、ブルワーズのマット・アーノルド、ブレーブスのアレックス・アンソポロス、ジャイアンツのファーハン・ザイディら、そうそうたる面々だ(注:アンソポロスはブルージェイズGMを辞任後、ザイディはアスレティックスでGM補佐を経て、ドジャースに合流している)。

 ドジャースの経営トップも編成トップも、たとえ何らかの事情で退陣したとしても、その時点で確かな後継者が育成されているはずで、それはフリードマン退任後のレイズが、現在もヤンキースやレッドソックスを相手に互角以上の戦いを続けていることでも充分、証明されている。

 よってドジャースは今後、黒歴史を繰り返すこともないし、大谷を失う可能性も極めて低い。

 ドジャースは国際的な収益と国際的なファンの幅広い支持を受けるビッグクラブであり、98~00年のヤンキースを最後にどのチームも成し遂げたことのないワールドシリーズ連覇が、大谷を擁する次の10年の目標であるべきなのだ――。

文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO

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]...以下引用元参照
引用元:https://news.nifty.com//article/sports/baseball/12290-2709225/

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