私人逮捕系YouTuberの一人、「煉獄コロアキ」の名前で活動する40歳の男が名誉毀損(きそん)容疑で逮捕された。今年9月、18歳の女性をチケットの不正転売をする「転売ヤー」と決めつけ、「パパ活やっているでしょ」「お金返して8万円」などと呼びかける動画をモザイクなしで無断撮影してYouTubeに投稿したが、女性は転売には関わっていなかった。
私人逮捕系でやり玉に挙げられるのは、転売ヤー、痴漢・盗撮犯、違法薬物取引、パパ活など。“世直し系”“パトロール系”とも呼ばれ、コメント欄では「犯罪の抑止になる」「痴漢をやっつけてくれてありがとう」と称賛する声も少なくない。
一方で、女性1人を男性数人で取り囲んで腕を掴んだり、男性の上に馬乗りになり羽交い締めにしたりするなど、過剰に思える行動も少なくない。実際、視聴者からは「証拠もないのにやりすぎ」「冤罪(えんざい)が生まれるのでは」といった懸念の声も上がっている。
■訴えられるのは時間の問題だった
たしかに、緊急を要する場合は、一般人が容疑者を逮捕することが認められている。これがいわゆる「私人逮捕」だ。犯人が現行犯人または準現行犯人(犯罪をしてから間がないと明らかに認められる人)であること、または犯人の住所、氏名が明らかでなく、犯人が逃走する恐れがあることなどが条件となる。
しかし、私人逮捕系の場合は、自ら「容疑者」を呼び出したりわざわざ会いに行ったりして撮影していることが多い。初めからカメラを回していることから、緊急を要するものではなく、私人逮捕の要件を満たしているとは言いがたいのだ。
また、だれかを「痴漢」「パパ活」「転売ヤー」などと糾弾し、取り押さえるために乱暴したり、動画を投稿したりした場合、たとえ実際に犯行をしていたとしても、名誉毀損罪や暴行罪に問われる可能性もある。そもそも、訴えられるのは時間の問題だったというわけだ。
■正義を謳いながら、本音は「有名になりたい」
私人逮捕系の投稿者たちは犯罪撲滅のための行為だと言うが、本当に正義感のためであれば、そのような行動を撮影し、SNSに投稿する必要はない。犯罪をなくすためなら、事前に通報するなど別のやり方もあるだろう。それでもあえて彼らが投稿するのは、やはり承認欲求を満たし、収入を得ることが目的なのではないか。
煉獄コロアキも、「転売ヤーを成敗」と謳いながら、動画に「美人転売ヤー逮捕」などと煽ったタイトルを付けたり、「お金が欲しい」「メディアに出たかった」といった発言もしている。
事実、今回の逮捕の後に、「広告収入を得て有名になりたかった」と供述している。「(男ばかりだと)逮捕される可能性がある」と考えて、自分たちの活動に協力する女性YouTuberを募集しており、リスクも自覚していたと見られる。
煉獄コロアキが投稿した動画は、X(旧ツイッター)で約3400万件のインプレッションを獲得している。Xでは、有料のXプレミアムに加入し、フォロワーが500人以上、過去3カ月以内の投稿に対するインプレッションが500万件以上の場合、広告利益の一部を得られるのだ(違法薬物など収益化できないジャンルを除く)。彼は、過去に「Twitterからの収入が5万円あったのに銀行口座を凍結された」と投稿している。
■私人逮捕系は迷惑系YouTuberの進化系
SNSでは、目立つことはインプレッション増加につながり、承認欲求を満たすと同時に、収益増加にもつながる。しかし、YouTubeはすでに競争相手が多いレッドオーシャンであり、普通の動画を投稿しているだけでは叶えることができない。
そこで、行動を過激化させた結果生まれたのが、迷惑系YouTuberだ。発信するコンテンツがなく再生数が伸びないYouTuberたちが、“炎上”目当てで迷惑行為や犯罪スレスレの行為を行うようになったのだ。迷惑系で知られる「へずまりゅう」も、元々は一般的な動画を投稿していたが再生数が伸びず、徐々に迷惑系にシフトしていった。
しかし、2020年にへずまりゅうがスーパーで会計前の魚の切り身を食べたなどとして逮捕され、迷惑系動画を投稿するとYouTubeアカウントが停止処分を受けるようになった。そこで、進化系として現れたのが、私人逮捕系YouTuberだ。ただ迷惑行為をする迷惑系とは異なり、悪を罰するという社会正義を盾に、過激な行動も許される状況を作ったのだ。
■過激化でYouTube停止処分、果ては逮捕
私人逮捕系は再生回数が伸びると分かったことで、次々と類似のYouTuberが台頭。その中で目立つためには、次々と過激なコンテンツを投稿し続ける必要があり、行動はさらに過激化していった。それが、今回の逮捕につながったというわけだ。
最近になり、私人逮捕系YouTuberは次々とアカウント停止処分となっている。「嫌がらせ、いじめ、脅迫を目的としたコンテンツを禁止としたYouTubeポリシーに対するたび重なる違反、または重大な違反」というのが理由だ。煉獄コロアキは逮捕直前に停止され、“撃退・報道系YouTuber”を名乗っていた「令和タケちゃん」なども停止処分となっている。
令和タケちゃんは、京都の木津川の河川敷を不法占拠し、ヤミ畑で作物などを育てていた外国人から土地を取り戻したり、旭川の女子中学生いじめ凍死事件で教頭の自宅に突撃するなど、やはり過激な行動で知られていた。
■視聴者も正義感の下に堂々と鬱憤を晴らせる
コロナ禍ではSNS利用時間が増え、社会不安も増大した。ネットトラブルを研究する「シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所」の調査によると、2020年1〜11月の“ネット炎上”は前年比で3.4倍にまで増加した。ストレスがたまり鬱屈した気持ちを晴らすために、他者に攻撃的になる人が増えたためだ。
私人逮捕系YouTuberが台頭してきたのは、同じく2020年ごろだ。コロナ禍のストレスを晴らすように、徐々に人気が高まってきたものだ。へずまりゅうが逮捕され、迷惑系YouTuberの行き詰まりが明らかになった頃から、入れ替わるように人気が上がっていった。
私人逮捕系でやり玉に挙げられるのは、普段から怒りの対象となり、嫌われている存在ばかり。つまり、悪を自分の代わりに成敗してくれるという構図になる。
人には、過激なものが見たい欲求がある。だれかが自分がやりたくてもできない行為をやってくれることで、代替行為として楽しむことができる。社会正義という建前があれば、自分自身にも言い訳ができる。実際は単に鬱憤(うっぷん)を晴らしたい気持ちだとしても、「批判されるべき対象だから叩いてもいい」と考えて、エンタメとして受け入れてしまうのだ。
■次の「迷惑系」を登場させない方法
物価高が止まらない一方、給料はほとんど上がらない日本。コロナ禍は落ち着いても、閉塞(へいそく)感がある現状は変わっていない。そこで、鬱屈した不満や鬱憤を晴らす場として、悪を代わりに成敗してくれる私人逮捕系動画を見て楽しむ人が増えていったというわけだ。
たしかに痴漢・盗撮は許されない犯罪行為であり、転売も不当に値段をつり上げ、本当に購入したい人が買えなくなる迷惑行為だ。しかし、私人逮捕は人違いや冤罪の恐れもあり、撮影時の暴力行為も正当化することは難しいだろう。その動機が、「有名になりたい」「稼ぎたい」という私欲であればなおさらだ。私人逮捕系の活動も、やはり大きな問題をはらんでいるのだ。
迷惑系YouTuberも、へずまりゅう逮捕などを経て下火になっていった。私人逮捕系も、今回の煉獄コロアキ逮捕で下火になっていく可能性が高い。しかし、目立てば承認欲求が満たせて収入も得られるという構図は変わらず、今後さらに進化した違う形の迷惑系が登場しないとも限らない。
この悪循環を断ち切るためには、われわれ視聴者側が、問題のある動画は無視をしてNOを突き付ける姿勢を貫くしかないのではないだろうか。
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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。
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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)
]...以下引用元参照
引用元:https://news.nifty.com//article/magazine/12179-2659739/