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WBCでは、数々の名場面がありました。強い弱い勝った負けたを別にして、栗山英樹さんが一番印象に残ったチームは、チェコというチームでした。選手たちが野球を愛し、リスペクトをし、全力を尽くす。何でそんな姿になっているのか、どうしても見てみたい。栗山さんがチェコに行ってきました。
■「こういう感じだったよな、最初の野球は」
中央ヨーロッパ、チェコ共和国。北海道とほぼ同じ大きさの国土に、芸術や文化があふれ、歴史ある街並みが広がっています。
栗山さんがまず訪れたのは、やっぱり野球場。すると、出迎えてくれたのは、WBCチェコ代表のハジム監督です。
3月、本大会に初出場を果たした代表チームは、そのほとんどがアマチュア選手。決して野球大国とは言えない国ですが、ここに訪れたかったのには、強い理由がありました。
3月、WBC。日本と1次ラウンドで対戦したチェコ。特に印象に残ったシーンがありました。
足への強烈なデッドボール。一度は倒れ込みますが、痛みをこらえ全力疾走。試合には敗れたものの、勝利した日本をチーム全員で称え、応援してくれた球場のファンたちにも拍手を送りました。
栗山さん:「相手に対して敬意を持って、『あなた方になんとか近づきますよ』みたいなメッセージを感じながら、すごく心地良く戦わせてもらった。『こういう感じだったよな、最初の野球は』と」
■「野球への愛」歴史に翻弄されたチェコ
心を揺さぶったチェコの野球。その原点を探るべく、野球協会を訪ねました。
栗山さん:「どうしてあのような気持ちで野球ができるのか知りたくてチェコに来た」
チェコ野球協会 ディトリッヒ会長:「謙虚な姿勢と相手へのリスペクトはいつも持っています。スポーツへの愛情でしょう。チェコで野球をする人はただ『好き』という気持ちからやっているんです」
「野球への愛」。そこには、忘れてはならない出来事が関係しています。
ディトリッヒ会長:「野球は資本主義的なスポーツとみなされて迫害されてきたんです。日本やアメリカ的ということは、社会主義体制で好ましくないものでした」
チェコの野球は、歴史に翻弄(ほんろう)されてきました。
1968年に首都・プラハで起きた、民主化を目指す運動「プラハの春」。しかし、ソ連が市内に戦車を送り込むなど軍事介入し、これを抑え込みます。チェコは社会主義の統治下に置かれ続けたのです。
アメリカを象徴するスポーツである「野球」を自由にやる環境は、ほとんどありませんでした。
当時の様子を知る現地のザールバ記者は、「当時、野球は迫害され、選手たちは秘密警察によって公園に追いやられることもありました。野球をやることは、当時の体制への抵抗であり、自由を獲得するための戦いだったんです」と話します。
1989年。そんな社会主義体制を振り払おうと、市民の動きは強まります。民主化を訴えるバルコニーの演説には、30万もの人々が集まりました。一人ひとりの声が、自由を勝ち取ったのです。
■グローブを手にはめた時「これは素晴らしい」
チェコの民主化が始まった場所。そこに立って、感じたのは…。
栗山さん:「本当に大変で、命がけだっただろうし、音楽・芸術・スポーツは自由にしたい」
そんな民主化から、4年後の1993年にチェコ野球協会が設立。96年からは、チェコとして初めて国際大会の舞台に立てるようにもなりました。
この発展に力を入れてきた一人が、代表のハジム監督です。
野球を始めたのは、16歳の時。チェコの国内リーグで長年、選手として活躍。引退した後も、神経科医の仕事をしながら、野球にずっと携わっています。
栗山さん:「当時は野球を自由にできる環境ってなかったと思うんですけど」
ハジム監督:「社会主義者たちは、野球を禁じました。ただ、グローブを手にはめた時、『これは素晴らしい、私にぴったりだ』と感じたんです」
栗山さん:「グローブはめた瞬間のなんとも言えない幸せ感」
ハジム監督:「私が今でも野球に夢中になっているのは、チームスポーツでありながら、強い個性の集まりだということ。最高のスポーツです」
■「より良い人間こそが優秀な選手」
ハジム監督は指導者として伝える時も、一つの信念を持ってきました。
ハジム監督:「スポーツだけでなく、人生を指導する。優秀な選手になるには、より良い人間でなければならないのです」
「より良い人間こそが優秀な選手」。初のWBCでチェコが見せた振る舞いは、ハジム監督の信念が体現された瞬間でした。
WBCを経て、今チェコでは、野球がさらに盛り上がりを見せつつあります。
栗山さん:「『人はこう生きなきゃいけないんだな』と。勝負とは違った、すごく良いものを感じながら戦っていたんですね。大切なことをハジムさんが知っているから、すごく大きいんじゃないかと」
ハジム監督:「アリガトウゴザイマス」
■チェコ監督「野球とは愛、情熱」
栗山さんがチェコで最後に向かったのは、子どもたちが野球に取り組むグラウンドでした。
ハジム監督や多くの人々が、懸命につないできた野球を思いっきり楽しむ姿がありました。
子どもたち:「将来はチェコリーグで活躍する選手になりたいんだ」「僕も!」「僕も!」
チェコと野球。栗山さんが見た強いつながり。
栗山さん:「ハジム監督にとって、野球とは何ですか?」
ハジム監督:「野球とは愛、情熱です。空気や水、食べることが必要なように、生きるために必要なことなんです」
(「報道ステーション」2023年11月10日放送分より)
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp
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