■世界市場は5兆円まで拡大 急成長の一方で負のイメージも
近年、にわかに注目を集めている「フェムテック」や「フェムケア」という用語。これはライフステージとともに変化する女性特有の体や心の不調を解決するサービスや商品を指す用語で、「フェムテック」は主にアプリやAIなどデジタルテクノロジーを活用したもの、「フェムケア」はそれ以外のケア用品を指すことが多い。
アメリカの調査会社では、2025年までにフェムテックの世界市場は5兆円まで拡大すると試算している。また日本でも2021年より経済産業省が女性の社会活躍をサポートすることを目的に「フェムテック」や「フェムケア」の事業費補助金を交付しており、スタートアップ企業の参入を後押しした。
とは言え、一般的にはフェムケアやフェムテックという言葉はまだまだ一人歩きしている段階。むしろ「新しいカネ儲けのネタじゃないの?」などと懐疑的に見る傾向も依然としてある。事実、「フェムテック」「フェムケア」をうたった商品やサービスはしばしば炎上しています。たとえば「女性器に装着して女性ホルモンの分泌を促す」といった商品は科学的根拠がないとして問題視され、「生理中にもお風呂を諦めないための赤い入浴剤」はSNSで「問題はそこじゃない」「的外れ」と大批判を浴びた。
生理痛やPMSで悩む女性は多く、フェムテックやフェムケアという概念自体は歓迎されるべきもの。しかし「なんとなく信用できない」といった負のイメージが広まってしまっては、質の高い商品やサービスの開発すら阻害しかねません。それが日本におけるフェムテックやフェムケアの課題であり、リアルな現在地と言えるだろう。
■女性社員の7割が抱える悩みが新規事業のヒントに「セルフケアで根本的な解決ができるのではないか」
そうしたなか、ワコールでは10月5日にフェムケア事業「YOJOY(ヨジョイ)」がローンチされた。「YOJOY」とは「私がととのう。私がよろこぶ。」をコンセプトに女性のセルフケアを支援する同社の新たなブランドで、名称は"養生"と英語の喜び="JOY"を由来としている。
「弊社の従業員は9割が女性です。社員のからだとこころの健康をサポートすることは企業の責任であり、2021年に日頃どのような不調を感じているか女性社員を対象にアンケートを取りました。そこで浮かび上がってきたのが、7割が生理痛やPMSによる仕事への影響を感じていること。このような現状に対して、『10代からずっとこうだから』と一時的な緩和方法でなんとか凌いでいる人がほとんどでした。しかし不調に気付いてから対処するのではなく、日頃から行うセルフケアによって揺らぎをととのえることができるのではないか。そう考えて専門家の方々にアドバイスを仰いで行き着いたのが、東洋医学の養生(生活に留意して健康の増進を心がけること)という考えでした」(YOJOY営業課 ファーセット真弓課長/以下同)
東洋医学に詳しくなくとも“養生”という言葉は日本人に馴染み深い。しかし自分のからだとこころに向き合い、丁寧な生活を心がけるのは忙しい現代人には難しい。
「専門家によると女性特有の不調は忙しさもさることながら、忙しさによって十分なセルフケアができていない結果として不調があらわれることが多いようです。だからこそ同ブランドでは定期的に自分の状態をチェックすること、そしてその状態に応じてからだとこころをケアするといった習慣付けがしやすいサービスと商品の開発を重視してきました」
同ブランドでは無料のデジタルコンテンツと、月経周期や二十四節気(※)の過ごし方に合わせたインナー、デリケートゾーンにも使えるボディ用化粧品を展開している。
「まずは自分のからだとこころを知るところから始めていただきたいと考えています。デジタルコンテンツでは14項目の設問に答えることで“今”の状態を評価し、タイプ別に適した食事や運動、生活のコツを提案しています。その上でご自身に適したセルフケア商品がYOJOYにあれば、ぜひ使っていただきたいというステップを提案しています」
インナーはいわずもがなワコールの専業だが、デリケートゾーンにも使えるボディ用化粧品は“養生”や“セルフケア”の考えに基づき欠かせない商品として新たな挑戦に踏み込んだ領域だ。
「専門家によるとデリケートゾーンケアにおいて、膣まわりの保湿ケアも大切なポイントの1つとのことです。同ブランドの商品は国内製造に定評の高いナリス化粧品との共同開発で、品質と安全性を第一に開発しました。また習慣化しやすいよう、洗浄から保湿までお風呂で完結する使いやすさにこだわっています」
※二十四節気/1年を24に分けた日本の暦。立春、夏至、秋分、大寒など。
■“当たり前の習慣化”に根付かせることが使命
同社では、これまで「フェムテック」や「フェムケア」という言葉が誕生する以前から、産前産後をサポートするマタニティ用インナーウェアやサニタリーショーツ、尿もれ軽減対策をサポートするショーツなど、 女性特有のからだの変化に寄り添う商品を数々展開してきた。しかし、なぜ今フェムケアブランドをローンチしたのか。それは前掲にもあるように、「フェムケア」を特別なものではなく、“当たり前の習慣”にしたいという想いが根底にあるからだ。
「サニタリーショーツなど“点”の悩みにピンポイントで応える商品は今後もワコールの各ブランドで展開していく予定です。一方でYOJOYは女性の不調を“面”で捉えたブランドです。メインターゲットは20~30代。“キャリア形成期”と“妊娠・出産・育児のライフイベント”が重なり、多種多様な不調に苦しむ女性が特に多い世代です。またその不調の多くが女性ホルモンに起因することから、YOJOYではセルフケアで女性の揺らぎをととのえることに着目しています。同ブランドのサービスと商品を通して、歯を磨いたり、スキンケアをするのと同じくらい、セルフケアを当たり前のものにしていただきたいと考えています」
同社は、1964年設立の自社研究機関・人間科学研究開発センターを保有しており、同じ女性を30年以上にわたって追い続けるなど他に類を見ないデータが多数蓄積されている。今後はYOJOYのデジタルプラットフォームの活用により、さらなる貴重なデータが積み上がっていくことだろう。
では、企業としては「フェムケア」とどう対峙していくのか。
「健康経営と生産性の向上を推進していくうえで、女性特有の健康課題によるプレゼンティズム、アブセンティズムの課題は重要な位置づけにあると考えます。
女性一人ひとりのQOLの向上を図ることが当社のミッションであり、それを実現するために女性特有の健康課題に対応するサービス・商品を提案していきたいです。女性のからだとこころをトータルでサポートすることでセルフケアが浸透し、女性一人ひとりの人生が自分らしく、より豊かなものになることを目指しています」
(取材・文/児玉澄子)
]...以下引用元参照
引用元:https://news.nifty.com//article/entame/showbizd/12173-2619993/