2023年10月2日。ジャニー喜多川元社長の性加害問題を受け、ジャニーズ事務所の社名変更が発表されました。新社名は「SMILE-UP.」。
ここでは、現役コピーライターである筆者が、“ネーミング”という切り口からジャニーズ問題を考察していきます。
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ネーミングには、商品やブランドによって、さまざまな役割が課せられます。例えば、機能や特性をわかりやすく伝えること、認知度を上げること、ブランドの世界観を伝えること、などなど。
今回のジャニーズ事務所の社名変更ではどうだったでしょうか。恐らくネーミングに課せられた1番の役割は「なるべく批判されないこと」だったのではないかと思います。
以前、私も、かつて炎上したことのある商品のリニューアルの際に、ネーミングを請け負ったことがありますが、当然ながら、そういう仕事はナーバスです。
あらゆる角度から「批判される可能性」が検証され、いつも求められているような「かっこいい」「かわいい」「目立つ」といった要素はなるべく排除し、可もなく不可もなく、批判しづらいポジティブな要素だけで構成したものが望まれます。人は、ちょっと目立っていて魅力的なものほど批判したくなるからです。
■「何を出しても批判される」状態での社名変更
戦後最悪とも言われる人権侵害の真相が究明されようとするさなかであり、最初に行われた会見で社名を変更しないと明言した最悪の状況。新社名が批判されないなんて不可能なだけに、ジャニーズ事務所としても、「何を出しても批判される」という心持ちだったと考えられます。
ネット上でも、さまざまな批判や揶揄を目にしました。まず、「SMILE-UP.」という社名は、ジャニー喜多川氏が発足した慈善事業団体「Johnny's Smile Up!Project(ジャニーズ・スマイルアップ・プロジェクト)」が元になっているため、「(喜多川氏と)リンクされるため払拭にならないね」というデーブ・スペクター氏のコメントに代表される意見。
また、プリマハム株式会社の連パックブランド「家族でおいしく スマイルUP!シリーズ」をはじめとした、さまざまな商品名と同名であったことも批判の一因となりました。ネーミングというのは、カテゴリーが違えば、名が被っていても本来は問題ないのですが、それだけジャニーズ事務所の対応を批判的な見方で注目している人が多かったということでしょう。
なお、プリマハム側は、記者会見直後「X(旧Twitter)」にソーセージのキャラクターがびっくりしているイラストを投稿。「巻き込み事故!」「でもなんか買いたくなった」などと面白がられ、ちゃっかりPRに利用していました。
他にも「スマイルアップって、略すとSMAPじゃん」など、さまざまなざわつきが、少なからずありました。しかし、これはおそらくジャニーズ事務所にとって想定の範囲内の反応だったことでしょう。
■ジャニー喜多川氏体制で命名された「Smile Up! Project」が引き継がれた意味
なお、特許庁の商標検索サイトで簡易検索してみると、呼称「スマイルアップ」で出てくる登録名称は17件もありました。もちろん、そのなかにはジャニーズ事務所の登録も含まれます。
2019年に登録された「Smile Up! Project」は幅広い社会貢献・支援活動を行っていくプロジェクトの名称です。つまり、“慈善活動”として、しっかり“商標登録”されており、“すぐに使える権利のある名前”ということ。
これは、「被害に遭われた方々への支援や補償を少しでも早く進めていくことが『SMILE-UP.』社の社会的責任と考えております」という東山新社長の発言にもつながると考えられるでしょう。今回の会見における「補償を早く進めたいから(この名前にした)」という言葉ほど、世間からの非難に対して強力な言い分があるでしょうか。
以上のことから、このネーミング開発に関しては、プロのブレーンがいたのかなと思うような隙のなさが窺えます。前回の記者会見がグダグダだったことに比べると、別の会社かのような立ち居振る舞いです。
細かい点ですが、元々の「Johnny’s Smile Up ! Project」の「Smile Up」には「!(エクスクラメーションマーク)」がついていたのに、今回の社名変更では「!」が「. (ピリオド)」に変わっている。ここにも、少しでもはしゃいでいる感じを減らそうという細心の気遣いが感じられます。
■新マネジメント会社の名前を一般公募する違和感
しかし問題なのはこれから。補償会社の名前はいずれ消えてなくなるものですが、本当に大事なのは、これからも背負い続けることになるエージェント会社の名前の方でしょう。こちらは「ファンから公募する」というかたちで、またも「なるべく批判されない」やり方を選択しました。
「公募」は不祥事が起きた場合に企業・団体がとる常套手段のひとつです。私たち広告屋や大企業のやることは、なにかと批判されやすい反面、「一般人が考えた」ものに関して、人は批判しづらいと感じるもの。
そして、公募のもうひとつのメリットは、ネーミングの制作過程をエンタメ化できるところです。人々の意見を取り入れるという姿勢をとることで、世の中を巻き込み、話題化させ、会社のリスタートをポジティブに発信できる可能性があります。
この記事もそうですが、新しい名前が発表されることで、やいのやいのという輩は少なくないだけに、事件そのものの問題から人々の目は逸れてしまうかもしれません。私たちは問題の本質について惑わされないようにしないといけないですね。
もちろん、名前を変えるということは、新しく生まれ変わろうというジャニーズ事務所の強い意志表明でもあります。そこから芸能界やメディア、そして日本が良い方向へ変わっていくきっかけになることを、切に願います。
と、書き終わったところで、10月4日、2回目の会見に記者指名の「NGリスト」があったことが発覚しました。やっぱり「なるべく批判されない」がテーマだったのだなと痛感します。この問題の関係者たちが心からSMILE-UP.できる日は、いったいいつになるのでしょうか。
(こやま淳子)
]...以下引用元参照
引用元:https://news.nifty.com//article/item/neta/12113-2593342/