ドラマや映画、舞台にひっぱりだこの俳優・佐藤二朗さん(54)が、2023年6月に初のコラム集『 心のおもらし 』(朝日新聞出版)を刊行した。コラムでは、フォロワー数200万人超を抱えるTwitterでもおなじみの「妻」への溺愛っぷりや息子の面白い発言に加え、俳優としての演技への想いなども綴られている。
今回は佐藤さんに、家族との関係やパートナーとの出会い、「暗黒の20代」と語る下積み時代について聞いた。(全2回の1回目/ 2回目 に続く)
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■Twitterで惚気ると妻に怒られる
――先日発売されたコラム『心のおもらし』には、Twitterで話題になっている惚気ツイートの話や、ご家族とのエピソードが数多く掲載されていました。
佐藤二朗さん(以下、佐藤) 惚気ツイートをすると、妻から「酔って惚気ツイートするのは自粛しなさい。『ケッ!』って思う人がいるかもしれないから」って怒られるんです。
でも、彼女の言っていることはよく分かるんですよね。僕も、もしまったく知らない50歳過ぎのおっさんが「妻が宇宙で一番好き」って投稿しているのを見たら、「ケッ! 何を言ってるんだこいつ!」って思いますもん(笑)。
だから、不快に思う人がいることも分かっているんですよ。でも、酔っ払っちゃうとねぇ……。プロインタビュアーの吉田豪には「佐藤二朗ほど平和に燃えるツイッターはない」と言われましたよ。
――酔っ払ってツイートするとパートナーは怒りますか?
佐藤 怒るときは怒ります。炎上しそうな投稿をしちゃったときとかは、本当に怖い。
この間『鶴瓶の家族に乾杯』(NHK)に出演したとき、「俺、国民にどう思われようと関係ないんです。それよりも、妻に怒られない方が大事です」って話したんですよ。そしたら鶴瓶さんも「俺もや」ってゲラゲラ笑っていましたね。
――コラムにも書かれていますが、パートナーはキレのあるコメントをしますよね。
佐藤 妻は僕の顔を見て「君、便器に似ているね」とか、「電話ボックスに似ているね」とか言ってくる。彼女から見た僕は、どういう顔をしてるんだよ。服装についても「君が着ると何でも作業着になるね」って言いますしね。
――でもTwitterやコラムを通して、ご家族のファンになった方も多いと思います。
佐藤 一部では、僕のファンより妻のファンのほうが多いって言われています(笑)。
息子に関しては、小学校にあがったら子どものことはTwitterに書かない、と妻と約束していたので、最近は載せないように注意しています。それに年齢を重ねたことで、以前のように爆発的に面白いことは言わなくなってきましたね。昔は「昭和1年に恐竜いた?」とか言ってましたから。
――子どもの成長は嬉しくもあり、寂しくもありますよね。
佐藤 今のところ、寂しさ3割、成長の喜び7割、って感じです。最近は、「ついに息子に精神年齢を越されてしまったのでは?」と思ったこともあります。
■「息子に精神年齢を越されたのでは?」と感じた出来事
――具体的にお聞きしてもいいですか。
佐藤 僕は各所で「自分の精神年齢は8歳だ」と言っているんですけど、息子の前では父親の威厳を見せたいから、バカなことをするのはなるべく控えているんです。だから、息子がいない間に妻を「オカータヌー(お母さん)」って呼んだり、「ウェーイ」って叫んだりして、妻だけに甘えていたつもりでした。
でも彼女が「ごめんちょっと静かにして」ってクールに言うもんだから、「息子が学校に行っている間くらい、自分を解き放ってもいいじゃないか!」と主張したんですよ。そしたら「あなたは気づいていないかもしれないけど、息子の前でもそれやってるよ」と言われて、愕然としましたね。
ちなみに、息子は妻に似てクールなので、「オカータヌー」とか「ウェーイ」とかはやらない。そういう意味で、もう精神年齢は抜かれています。
――ちなみに、お子さんは佐藤さんの仕事をどう思っているのでしょう。
佐藤 怖くて聞いたことがないですね。あと、僕の出演作品はエッジが効いているというか……子ども向けじゃないものもあるので、演技をしている姿をあまり見せていなかったんですよ。
一緒に見るとしても、吹き替え声優として参加した『ライオン・キング』や『インサイド・ヘッド』といった海外アニメが多かったから、僕のことを「声優さん」だと思っていた時期が長かったかもしれない。
――息子さんに出演作品を見せるかどうかは、夫婦で話し合って決めているのですか?
佐藤 そうですね。下ネタが出てくるものは良くないんじゃないかとか、父親が泣いている姿は見せない方がいいんじゃないかとかを相談したりします。
たとえば、『今日から俺は!!』(日本テレビ系)がすごい流行ったとき、僕は見せてもいいんじゃないかと思ったけど、妻は「暴力シーンがあるからまだ早いんじゃないか」と言っていて。そのときは「さすがにそれは保護しすぎじゃない?」って話し合いました。
ただ、今は息子もかなり大きくなってきたので、見せられないものは見せられないと直接本人に話しますね。映画『はるヲうるひと』(佐藤二朗さん原作・脚本・監督)は「まだ君が見るには早いけど、時期が来たら観てくれよな」って伝えています。そしたら「わかった~」と言ってました。
――結婚して20年を迎えた今でも、晩酌しながら夫婦で話すのが毎日の楽しみだそうですね。
佐藤 妻とは、付き合っていた頃も含めたら30年近く一緒にいます。それでも、会話をするといまだに彼女の新しい一面を発見するんですよ。同じ映画を観ても違う感想を持つし、同じニュースを見ても違う価値観がある。それが面白いんですよね。
――「年を重ねるごとに会話が減る」と悩む夫婦も多い中、なぜ佐藤家ではいつまでも仲良く過ごせているのでしょうか?
佐藤 いろいろ理由はあるかもしれないけど、一番は僕が彼女を好きだからでしょうね。
――Twitterでもおなじみの惚気話が聞けて嬉しいです。
佐藤 もっと「ケッ!」と思わせてしまうかもしれないけど、最近妻に「俺、いつまでも君を好きでいられる魔法をかけられた!」って言ったんですよ。そしたら彼女から「やっと気づいたか」と返されましたね。
■俳優研究所で「妻」と出会ったときの鮮明な思い出
――そんな素敵なパートナーとは、俳優研究所で出会ったそうですね。
佐藤 僕が2つ目に入った研究所で出会いました。実は、出会ったときのことをいまだに鮮明に覚えているんですよ。
稽古後に部屋を掃除するとき、まだ入ったばかりで掃除用具がどこにあるかも分からなかった僕に対して、先輩だった妻が「雑巾はあのロッカーに入っています」と教えてくれて。そのまま僕の横を通り過ぎていったんです。
――そこで一目惚れした、ということでしょうか。
佐藤 いや、そのときは一目惚れとかそういう感情はありませんでした。それなのに、出会いから30年以上経った今でもそのワンシーンを覚えているから、不思議ですよねぇ。
――佐藤さんは俳優研究所で過ごした下積み時代を「暗黒の20代」と話していますよね。
佐藤 20代で妻と出会えたし、俳優生活の恩人と呼べる人にも出会えました。自分にとって必要な時期だったと思っていますが、戻りたくはないですね。お金もなかったし、俳優になれるかもわからなくて精神的にきつかったから。
――俳優を目指し始めたのは、小学校4年生のときだったとか。周りには「俳優になりたい」と言っていたのでしょうか。
佐藤 まったく言っていないです。卒業文集とかに将来の夢を書くじゃないですか。そういうのにも書いてない。誰に言わずとも「俳優になる運命」だと思っていたから。
でも一方で、「本当に俺は俳優で食べていけるのか?」という不安もあったんです。それで、俳優の道に進む勇気が持てず、大学時代は一般企業への就職活動をしていたのですが……。本音では俳優になりたいから、面接で中途半端なことしか言えなかったんですよ。それで、ことごとく面接で落ちちゃって。
――それでも、新卒でリクルートに入社しています。
佐藤 結局1日で退職してしまったんですけどね。ひとつ言っておきたいのは、リクルートは今も昔も素晴らしい会社です。2019年には、僕が1日で退職した背景を知りながら、リクルートが発行してた季刊誌『アントレ』の表紙をオファーしてくれたんですよ。なんて懐の深い会社だろうと思いました。
そんな会社を1日で辞めたのは、ただ僕が中途半端だっただけ。入社式の席で「これから俺はこの人たちと一緒に働くのか。つまりこれで俳優を諦めることになるのか」と、まだ夢を捨てきれていない自分の気持ちに気づいてしまって。いても立ってもいられず、会場を飛び出してそのまま鈍行に乗って愛知の実家に帰ってしまいました。
当時は今以上に新卒至上主義だったから、父親は半泣きでしたね。「なんで1日で辞めるような会社に入ったんだ」って宇宙一正しい正論を言われました。そのときの父の顔はいまだに覚えています。
■「暗黒の20代」を妻はどう思っていたのか?
――それからはどのような20代を過ごしたのですか。
佐藤 リクルートを正式に退職してからは、登戸にある小さいアパートの部屋を借りて、俳優研究所に入るお金を貯めるために塾講師をしていました。その1年後くらいに1つ目の研究所に入っています。でも劇団員に昇格できなくて。
それで妻と出会った2つ目の研究所に入ったのですが、そこでも昇格できなかった。結局俳優の道を諦めて、小さい広告会社の営業職に就いたんです。でもやっぱり、悔いが残ってしまって。
――再び俳優の道を目指すことにしたのですね。
佐藤 そうです。ただそのときは、当時彼女だった今の妻と結婚も考えていました。だから、「また夢を追いかけながらバイト生活を続ける日々に戻っていいのか?」と悩みました。でも、彼女は何も言わずに許してくれた。
それから何十年も経って、あるバラエティ番組に出演したときに、サプライズで当時の気持ちを妻に聞くって企画があったんですよ。僕は彼女が「夫の才能を信じていました」とか、良い話をしてくれるのかなと期待していたんです。だけど、「若かったから特に何も考えていませんでした」「悔いの残らないように好きなことをやれば? と思っていました」としか言ってませんでしたね。
――十分、良い話だと思います。
佐藤 まぁ、なんだかんだ僕のことをずっと見守ってくれているんですよ。暗黒の20代でもめげずに俳優の道を進めたのは、演技が好きなのはもちろん、妻のおかげでもあります。あ、また惚気てしまった、これはいかん!
撮影=石川啓次/文藝春秋
スタイリスト=鬼塚美代子/アンジュ
ヘアメイク=今野亜季/A.m Lab
佐藤二朗(54)が“批判覚悟”で語った「あの俳優、演技上手い」と言われることへの“違和感”「人生を賭けて生業にしている」 へ続く
(仲 奈々)
]...以下引用元参照
引用元:https://news.nifty.com//article/entame/etc/12113-2433629/